私の前著書『プラーグ』の共同執筆者で本書でも共同しているケント・ヘッケンライヴェリーがその答えを発見した。ケントはロサンジェルス カウンティ病院の医療スタッフ全員がポリオ(小児マヒ)ワクチンを接種されていたことを示す研究論文を発見した。そのワクチンはモーリス・ブロディ博士がニューヨークのロックフェラー財団と共同開発したものだった。(※2)

ポリオウイルスは毒性を薄める目的でネズミの脳細胞で複数回培養されていた。ネズミの細胞を使ってウイルスを培養するのは1930年代では新しいことであり、それ以前には黄熱病ワクチンの開発に使われただけだった。(※3)

医療スタッフはワクチンに加えて、水銀を含むメチルサールという防腐剤に浸けられた免疫システム補助刺激剤を投与された。(※4)

ケントは他にG.スチュアート博士が1953年にウガンダで開催された世界保健機関(WHO)の総会で黄熱病とネズミ要素における諸問題につき行った講演の内容を発見した。このワクチンに2つの反対の声があがった。その一つは理由として

(i) ワクチン製造に使われるネズミの脳はネズミでは潜伏しているけれども人間には発症原因となりうる、あるいは具体的には髄鞘・脳脊髄炎の原因になるウイルスに汚染されているかもしれないこと、

(ii)向神経性の物質で活性化されたウイルスを抗原として使用すると中枢神経系(脳と脊髄)において深刻な反応がおこるかもしれない。(※5)



※2 Maurice Brodie, “Attempts to Produce Poliomyelitis in Refractory Lab Animals,”Experimental Biology and Medicine (March 1, 1935), 832–836, doi: 10.3181/0037972-32-7876.
※3 W.A. Sawyer et al., “Vaccination Against Yellow Fever with Immune Serum and Virus Fixed for Mice,” Journal of Experimental Medicine (May 31, 1932), 945–969.
※4 John F. Kessel et al., “Use of Serum and the Routine and Experimental Laboratory Findings in the 1934 Poliomyelitis Epidemic,” American Journal of Public Health and the Nation’s Health, Vol. 24, No. 12, (December 1934), 1215–1223. Doi: 10.2105 /
AJPH.24.12.1215.
※5 G. Stuart, “The Problem of Mass Vaccination Against Yellow Fever,” World Health Organization—Expert Committee on Yellow Fever, September 14–19, 1953, Kampala, Uganda, Presentation.

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