『非現実の幕開け』

顔面が潰れ、またもや死ぬかと思った。だが、死ななかった。頭蓋骨が壊滅するくらいの痛みはあるが、体は不思議と動く。大きな駐車場の敷地に出ての戦闘となり障害物も少なく視野もうんと広がる。コンクリートに大きなヒビが入る程、盛大に落下したにも関わらず、憑依生命体はその頑丈そうな体を起こし何ともなかったように俺に魔剣を振り上げる。

場所が変わっても相も変わらず魔剣を振り回してくる姿は、流石狂戦士と言ったところだ。隆々しい出で立ちと、それを体現する姿には何度も圧倒させられる。

しかし、その魔剣を先程まで全力で避けていたわけだが、2~3回回避に成功していれば、だいぶ見切れるようになってくる。それに今の俺は、衝撃波や魔剣の一太刀を受けても切れない体をしており(痛みはある)、それだけで余裕ができる……多分。ついでに、奴の持つ魔剣の威力は一撃必殺を(ほふ)ってくるが、大振りすぎて狙いが的確ではない気がする。

「(……ああ、そうか。こいつ狂ってんのか)」

カウンターのような攻撃をしてみようかという考えが、俺の脳裏に(よぎ)る。それにいつまでも逃げてばかりでは、結局何も変わらない。

「グオオオオ!!!」

一撃で俺を殺したいのか、やけに大きく上から下へと振り下ろす魔剣を見切り、横に飛ぶように避ける。

「(今だ!)」

そう思い、タイミングよく瞬時に相手の懐に潜り込もうとする。すると、力を入れた利き腕に大きな炎のエンブレムが輝き、瞬間「グイン!」と体が地を擦るかのような速さで懐に潜り込むことに成功し、そのまま狂戦士の胸に拳をお見舞いする。

「ったぁ!!」

ドン! という重い手応えを確かに感じた。

「当たった!!」

突然光ったエンブレムにも驚いたが、奴に攻撃出来たことの方にも驚いた。俺の拳が奴にどれだけダメージを与えているか分からないが、その一撃は強固な装甲を叩き、後退させるまでの威力を誇っていた。奴の装甲を考えれば武具も備えていない自らの拳をぶつけても、逆に返り討ちに合うと連想していたぶん、呆気にとられる。

が、致命傷を与えられるだけの攻撃ではないため、現状を覆す決定打にはならない。必殺の光線でも撃てたら話は別だが……。

そんな時、辺りにSPH戦闘員数十名が物陰に隠れながら到着していることに気付く。誰かが連絡してくれたのであろう、今まで目の前の狂戦士だけに気を取られていたせいで分からなかったが、気付いた時にはSPH戦闘員が陣形を維持しながら包囲していた。 人間じゃない肉体を手に入れた今でも、俺は初めて見るSPHのいかにも精鋭らしい凛然とした姿に見惚れた。