「プッ!」と睦子は声を漏らした。

「あら、ごめんなさい、笑っちゃって。いつの時代の話かしら。……マス江さんが、サーファーなんて言い出すもんだから。で、彩香ちゃんのその彼氏、辰郎って名前なんだけど、あたしと喋るときはママさんママさんっていって、懐いてくれるの。

ところが、この間店で客とやっちゃってねえ、喧嘩。相手がこともあろうに、例の偏屈男の二村さん。こっちをジロリと見たとか、ガンつけたとかつけないとかって、辰郎が始まっちゃって。また二村さんが、よしゃいいのに『私は別に、キミになど、まったく興味ありませんがね』なんて、ぶきっちょに言い返すもんだからさ。あのヒト、何を言っても険があるのよ。損な性格ね、悪い人じゃないんだけど。鬱病みたいだし。それであわや、辰郎の手が出そうになっちゃって」

「辰郎ってのは、いい体してるよ。日灼けして、筋肉がしっかりついてて、若い漁師みたいな。若かったら、あのタイプ好きだね。ああいうのを、サーファーって言うんだ」

最近、この人、繰り返しが多くなってきたけど大丈夫かしら、と、睦子は訝りつつ、

「前は工事現場で、肉体労働やってたらしいんだけど。最近はサラ金の取り立て屋やってるらしいわよ。身なりもさ、パリッとしてきたしね」と応えた。

「でもありゃ、捨てられるよ、すぐ。あたしの直感だけどね。あの娘、もう、これだもの」

老婆は競馬馬の目隠しのように「これだもの」と言って両手を顔の脇にぺたりとつけた。視野が狭い、夢中、盲目、というような意味らしい。

「だけどさ。そういう時期って、誰でもあるのよ。あの子、青春真っただ中だもの。目がぱっちりしてて、ぽちゃっとしたフランス人形みたいな顔立ちだから、もう男がほっておかないって。あの子見てると、ほっぺた、キュッと抓りたくなっちゃうわよ」

「だって体もねえ。こうだよ、あんた」

老婆はまたしても、両手を胸に当てて「こうだよ」と繰り返しながら、たわわな果物の房でも抱えるように、なぞってみせた。