七カ所の電気伝導度のデータを並べてみると、やはりニシベツ川源流が一番低い値となっていた。それが、川を下り中流や下流になると、値が三倍ほどになっている。

ニシベツ川源流は周りが森林で、マシュウ湖の伏流水である。汚れはほとんどないと言っていい。しかし、中流や下流は大草原で酪農地帯だ。草地にばらまかれた化学肥料や堆厩肥、スラリー(液状厩肥)などが流れ込んでいる可能性があることを、この数値は示していた。

同じく、流域が酪農地帯である四つの支流も、ニシベツ川源流に比べて場所によっては五倍もの値になっていた。

川原は数字をにらみながら、「酪農地帯の電気伝導度が圧倒的に高いな」と言う。

出丸は、数字に納得したかのように、こう言う。

「これで、酪農が川を汚していることは、ほぼ間違いない」

「明日には、流域ごとの牛の頭数が分かる。それと突き合わせればもっとはっきりするはずだ」

大河はそう言うと、今日はここまでにしようや、と声をかけた。それを合図にめいめいバイクで家路についた。

翌日の昼休み、ニシベツ農協の白鳥課長が、乳牛の飼養頭数のデータを持ってきた。個人名は分からないが、どの流域の酪農家なのかは分かるようにしてくれていた。大河と川原、出丸は、礼をして受け取った。

放課後、大河と川原、出丸と水産科三・四年生の数名は、水産実験室で図面を広げ、流域ごとの酪農家戸数をカウントしていた。流域ごとにまず酪農家の戸数を、黒板に縦方向に書いていった。

それから、白鳥課長から提供された一軒一軒の乳牛飼養頭数のデータを、スマホの電卓機能を使って足し合わせていく。こうして、七つの流域ごとの乳牛の頭数のデータが算出された。このデータを黒板の酪農家戸数の横に書いていった。

さらに昨日の、川の水の電気伝導度のデータも七つの流域ごとに、横に書いてみた。

「川原、どう思う」と出丸が川原に問いかける。

「どう見ても、酪農家戸数や乳牛頭数が多いと、電気伝導度が高い。つまり川が汚れているな」

大河は、黒板の数値をにらみながら、こんなことを言う。

「これを、一目で分かるようにできないんか?」

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