第一部 カフェ「MICHI」が誕生するまで

突然のメール

バスはくねくねと曲がりながら、目的地に向かい走っている。ハウスの人々との出会いは、俺の行く道を照らしてくれた。ハウスでの仕事で優香とも知り合えた。ナイスガイ一平には、心を許せた。今こうして大学時代の友人を訪ねようとしている。以前の自分には考えられないことだ。秀一は、車窓の景色に目をやりながら、自分の確かな変化を感じるのであった。

友人が住む松山に到着した時、午後6時を過ぎていた。晩秋の風がひんやりと心地よい。ライトアップされた松山城を暫く眺めて、ゴシチゴ。しかしそこで一句とはならなかった。秀一は、ホテルに向かうため市内電車に乗った。昔のマドンナが沢山いる。おっとこんなことを考えては失礼か。

乗客をぼんやり眺めていた秀一は、俳句ポストがあることに気づいた。どうやら電車に乗りながら思いついた句を投函できる仕組みになっているらしい。松山はさすが俳句の街だな、と秀一が感心しているうちに、ホテル前の駅に着いた。チェックインを済ませて、友人に連絡しようとスマートフォンを手に取ると、メールの着信音がした。妹からであった。

家を出てから3年、連絡を取り合っていたのは妹のみであったのだ。父が肝臓がんで入院した。手術はできない。一度帰った方がいいと思う、というメッセージの内容は、秀一に衝撃を与えた。父が病に倒れる、そんな不安は微塵もなかったからだ。秀一は明らかに狼狽した。明日飛行機が取れ次第帰る、そのように返信した。

父、最期の言葉

秀一は、父が入院している病院に直行した。ベッドに横たわる父は、秀一を見てにっこり笑って言った。

「久しぶりだな、顔色や体型がよくなったじゃないか」

「驚いたよ父さん、どんな具合?」

父はこけた頬をしており、結膜と皮膚の色が黄色くなっている。重篤な容態であることは容易に想像できた。秀一は思わず父の手を握りしめた。その瞬間、あたたかい手のぬくもりが父と息子の心を駆けめぐり繋がったように感じられた。

「秀一、お前たくましくなったなあ、気持ちもだろう?よかったな」

「父さん我儘をしてしまってごめん」

「人生を愛せよ、秀一、君が今まで歩いてきた道も、これから歩いていく道も、誰のものでもない、君自身のものだよ」

その数日後。父は昏睡状態になり、2週間後に他界した。家族に不義理を働いているという重荷は、父の最期をみとることで、ほんの少しだけおろせたように感じる秀一であったが、喪失感や哀しみは、日々深まるのであった。ナイスガイ一平のような存在がいてくれたらと何度も思う秀一は、人と人が支えあうことの意味が確かに分かるようになっていたのである。