第一部 カフェ「MICHI」が誕生するまで

人は変われるもの

母と妹と林君が、実家で寛いでいる。真理亜が、「お兄ちゃん変わったよね。いきいきしてる」。

すると林君が「ぼくも変わったと思う。一緒に働いていた頃の先輩とはずいぶん違う。目がやさしくなったし、話をよく聞いてくれるようになったよね」。

母は、しみじみと「3年間で、どのような人と出会ったのかしらね、秀一をこのように変化させて下さった人に会ってみたいわね」。

三人三様に、人は変わることができるということを、改めて認識するのであった。

誰も同じで普通なんだ

父亡き後、家族の絆は新たに繋げたものの、秀一は喪失感と哀しみが日ごとに増していくのを感じていた。ナイスガイの一平に聴いてもらいたい、秀一は躊躇うことなく電話をするのであった。

「秀一、一度帰ってこいよ、待ってるぞ。話はその時に聴くぞ」

待ち合わせの時間と場所を約束して、その日が来た。忘れもしないあの日あの時あの場所は、5月7日午後6時、一平のスナック。いつかと同じ席に秀一は座った。

久しぶりの再会に、ビールで乾杯をして、秀一の話が始まった。父の最期に寄り添えたこと、父と心が通ったと思えたこと、家族の絆を繋ぎ合わせることができたこと、新たな家族ができることなど、時々声を詰まらせて語るのであった。

「父が繋ぎ合わせてくれた絆があれば、大丈夫だと思ったのに、喪失感と哀しみは強くなるんだ」

秀一は、最も言いたかったことを最後に絞り出した。一平は、相槌は打つものの、前回同様、肯定することもなく否定することもなく、静かに聴いてくれた。そして最後に

「誰も同じだよ、それが普通なんだ。俺もそうだったから」。

一平は穏やかな口調で言った。秀一は、無言でゆっくりゆっくりビールを飲んでいる。無言で注ぎ足す一平。2杯目を飲み干した時、秀一と一平の目が合った。

「そうだよな。俺だけではないんだよなあ」

秀一はそう呟き深く頷いた。そして

「ありがとう、一平」。