ヒョンソクの心は一瞬にして不安感に覆われた。自分の父親の声だとわかったからだ。

「やめるんだ!」

突然ヨンジュがステージの上に突進してきた。ヨンミとヒョンソクは仰天してその場に凍りついた。ヨンジュは息子へ向かっていき、襟首を掴むと脇へ引きずっていった。それと同時に、区長とチュ先生がステージへ駆け上った。区長がヨンジュの腕を掴んで彼を押しのけた。その背後で、チュ先生が怒って声を荒げていた。

「どういうつもりなんだ! 演奏の真っ最中だというのに。非常識じゃないか!」

ヨンジュはチュ先生をなじった。

「非常識だと? あんたはどうなんだ。あんたは私の息子を真の天職から外れた道に誘い込んでいるではないか。息子は伝統音楽の演奏家なのに、こんなゴミくずのような音楽を演奏させているじゃないか! そこにどんな常識があるというのだ。それにどうしてここにはこんなに人がいるんだ。本来なら田畑で働いているべき人々を集めて収穫の邪魔をしているあんたに言われる筋合いはない!」

ヨンジュはさらに声を荒げ、観客のほうへ顔を向けた。

「我々の時間は貴重だ。今我々は働かなければならない。ここにいる人たちよ! どういうつもりでここにいるんだ!」

ヨンジュは袖をまくり上げ、チュ先生と戦う準備をした。

「あんたに警告する。この町は伝統音楽に力を入れていることを知っておくべきだ。なぜこういったナンセンスな西洋音楽でこの町を汚染するんだ」

ヒョンソクのヘグムの先生がヨンジュに続いてステージに上がると、大声で言った。

「紳士淑女の皆さん! この方がおっしゃったことは正しいです。この町のような場所がほかにあるでしょうか? 何代にもわたって、我々の町は伝統的な価値に従ってきました。ここでは西洋音楽ではなく、伝統音楽のみを演奏するべきです!」

すると区長が、ヘグム教師に向かって発言した。

「ちょっと待った、お前はなぜ今ここでヨンジュの肩を持っているんだ? このフェスティバルにどなたがいらっしゃっているのかわかっているのか? お前たちの振る舞いは恥ずべきものだということがわからないのか?」

ヨンジュとヘグム教師は驚いてお互いに見つめ合った。区長が市長の味方についたことがわかったからだ。区長は、ヨンジュとヘグム教師をステージから下ろそうとしたが、ヨンジュは彼よりも強く、彼の力では手に負えなかった。ヨンジュは息子をまたステージから突き落とそうとした。その時市長が席から立ち上がった。市長とヨンジュは睨み合った。どちらもものすごく腹を立てていた。

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