第一章 大竹寿美としての人生

店内にはラジオが掛かっていた。FM放送のようだ。ラジオを日常的に聴く習慣がない智洋だが、おしゃべりメインのAMの番組ではないと推理した。雰囲気もいい。外のクルマの騒音も、ほとんど気にならない。適度の空間。広くもなく、狭くもなく。まあ、全席埋まったら、それなりには。でも、大げさにいえば、幸せを感じる。そんな空間ね。

その、智洋の幸せ感が陰った。

ん? なんだ、このにおい。これは、珈琲豆のにおいではない。えっとぉ、あぁ、煙草だ。

智洋は周囲を窺った。三人の客のうち二人が煙草を喫い始めていた。

こういうの、画竜点睛を欠くっていうのかしら、生駒さん、違うかな。

仕方ないわね。ここは三十年前。まだまだ禁煙の意識なんて。嫌煙権なんて、ないわよね。是非もなしよね。我慢ガマン。

あぁ、マスターも喫うんだ。

換気扇が強力なのか、あんまり煙たくはならないけれど、ちょっとガッカリ。それに、分煙も禁煙も設定されてないということは、客が皆、喫ったら、けっこうね……。

二〇〇一年ではないんだ、諦めよう。生駒さんだって昔は喫ってたって。

そうか……そうなのよね……いろんなことが、ここ昭和と平成のいまとは、二十一世紀の二〇〇一年とは、違うのよねぇ。

いまさらながらに、智洋は、自らが置かれている異様な状態を意識した。

意識はしたが、問題解決にはならない。現実を直視せよ、と、よく言われる。うん、そのとおり。だけど、いま、この現実を直視しても、どうなるものではない……。

智洋は、俄に疲労を覚えた。