数か月後、碧衣は女郎になる日を夢見て、怒涛(どとう)のような毎日を送っていました。なにがあってもへこたれません。

悔しい、悲しい、そんな思いを感じる間もないくらいにがむしゃらな日々でした。知らないことを教わること、少しずつでもできるようになること、その進歩していく自分に、碧衣は楽しさと自信を感じるようになっていました。

前の奉公先で女郎になりたいと決心した夜の翌日、碧衣は旦那さんに想いを伝えました。予想をしていなかった旦那さんはとても驚いた様子でしたが、碧衣の固い決心と家族思いの気持ちを察して、知り合いの業者を通じて置き屋を紹介してくれることになり、段取りをつけてくれたのでした。

器量良しと性格の良いこともあって、また、旦那さんからの推しもあって、ありがたいことに10年の約束を取り交わし、碧衣は新しい世界へと踏み入れることとなったのです。

来る日も来る日も、お稽古と姐さんたちの日常のお世話が続きます。すべては家族のため。だから、頑張れる自分でいられるのだと。花魁に憧れ、自ら決めた道。病になり、若くして命を落としてしまう姐さんもいました。

碧衣は、そんな場面を目の当たりにしながらも、献身的にお世話をするのでした。まるで家族のように、まるで、もうひとりの自分に相対するかのように。

不思議と怖さはありませんでした。なにかに護られているような、そんな気さえしていました。碧衣の周りはいつも不思議と、あたたかな雰囲気に包まれていて、他の女郎を目指す仲間とも和気に満ちていたようです。

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