第二楽章 苦悩と悲しみの連鎖

Ⅱ 家族を守るために

いよいよ、初めての床入りを迎える日がやってきました。入念に儀式も終え、碧衣は晴れやかな気持ちでその日を迎えたのでした。いろんなお客さんを相手にすることで身体を酷使するわけですが、どんなお客さんに対しても、碧衣自身は一期一会のつもりで、失礼のないよう接していました。

そんな裏表のない仕事ぶりだったからか、気づけば碧衣はめきめきと人気を得るようになっていました。身請けの話もちらほらと上がるようになりましたが、碧衣は丁重に断り続け、花魁(おいらん)になることにこだわっていたのでした。

碧衣は、恋をすることはなかったのでしょうか。お年頃なら、きっと惹かれる男性ができてもおかしくないですよね。置き屋からむやみに出ることは禁じられていたようですが、時代とは言え、それも随分と理不尽な話かなと思ってしまいます。若旦那に片思いとか。それくらいはあったかもしれません。

けれども、碧衣のことです。きっと、自分のようなものは恋をしてはいけない。まっとうに男の人を好きになることは、許されるはずもないことなんだと、強く思っていたのではないかと察します。ふつうの幸せを望むことさえ、自分には関係ないことなのだという声が聞こえてきそうです。

女性なのに、本当にそれでいいの? と、つっこみたくなる私がいます。

あるとき、初老の旦那さんから、身請けの話が持ち上がりました。お妾さんという立場ではあるけれど、とても好条件のお話でした。実家へ帰ることも、今よりも許してもらえるという条件もありました。でも、もう少しで花魁(おいらん)に手が届くところ。このときは、碧衣も初めて決断に悩んだようです。