車窓はいよいよ山また山であった。

電車は木曽義仲(源義仲)の生地「宮の越」にさしかかった。巴御前とともに勇猛を奮い、平家打倒の先陣を切ったあの名将夫婦がここで住んでいたのだ。

歴史は常に勝者側によって作られるが、いったい誰が木曽義仲を悪役に仕立てたのであろうか。負けた側は常に悪人であろうか。更に彼が滅ぼした平家はそれ以上の悪人であろうか。

歴史の逆を考えるのは妙味であるしこれ以上の悦楽はない。なにしろ想像は自由であり、自分の都合で歴史を書き換えられるのだ。

時の帝が義仲に加担し、頼朝、義経を討っていたら、と思うといったいどんな今日があったのだろうか。木曽一帯は日本の中心となって人々の住居や道は整備され賑わったのだろうか。

十二時前、奈良井着。駅はやや寂しいがそれでも旅人を受け入れるには不十分ではなかった。「中山道奈良井宿」の表看板が見える。うららかな、そして頼りなげな薄曇りの秋の光が、 遠くから家並みに注ぎ込み、またしても時計は止まった。

音に聞く武田が土地に声聞こゆ

前回は薮原宿から東進したので、今回は奈良井宿から西進だ。

いきなり江戸時代にタイムスリップしたかのような光景が目前に広がった。ここは当時中山道最大の宿場町といわれ、大いに賑わったという。