17 奏楽

青年は歌っていた。時は止まっているようだった。そこには、時空の狭間はもはやない。ただただ青年は歌を歌っている、ただただ響いている。奏でている。すると、この世もそうであるが、霊界や天界というものも、大いに栄えているような気がするのは、気のせいか。気でもふれてしまっているのだろうか……。

歌は、元々目に見えない世界を動かす力があるのかもしれないのだよ……! 歌やこの声、そう、その硝子の破片のような、切なる想いならば、きっとこの世だって、あの世だって、届けたい存在や場所に、時間差はあるのかもしれないが、届くことだろう。そして、歌声が天使の翼となって、その対象を加護することだろう!

人は両極にあるものを体現することはできないが、ある程度の知覚はできるものだ。いつだって、人は、その人の代わりはできない。その人、一代限りなのであろう……。いつの日か、青年よ、地平線や水平線を眺めるとき、命を懸けた恋の足音を聴く。そのとき、きみの為だけに世界は(がん)(しゅう)を帯びているようであるが、実は、いつだって誰かが含羞を帯びていたことに気付くであろう。

「苦難に勝る教師なし」と言われてもいるが、世界の平安は、そうして、一人一人の気付きのなかでのみ、静かに加速していけるのではないだろうか。ましてやアクエリアンエイジ、誰もが皆、主役の時代! 真剣な恋の花束は、やがて命を産む愛の高尚へといざなう力を持っているはずだ!

ギター、ベース、ドラム、ボーカルも目立ったミスはなく、まだどこかつたないが、観客との妙な一体感もあって、むしろライヴステージで生まれた独創的なグルーヴィーを四人は創造することに成功していた。

『Blue Garden』は小さなライヴハウスかもしれないが、その確かな営みは、たとえば小さな種から、鳥達が巣を作るほどの大きな木になっていくようである。必ずしも、あの世で讃えられるものと、この世で讃えられるものは、同じではないかもしれない。大きい小さいというものは、こちらの人間側では計り知れないことではあるし、その質や内容こそが問われているのではないだろうか。

『Boketto』が今日、奏でた深い命のマリアージュとその営みは、きっと、この世界に転がっている普遍と刹那の間を取り持つ、命の(そう)(がく)となって、この世界における(ほう)(じょう)を呼び覚まし、回転させ、温め続けることだろう。

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