「その薬品会社は不正とは関係なかったのですか?」

彼女は首を振った。

「薬品会社が捕まったとは聞いていません」

「何という薬ですか?」

「フェンタニンという鎮痛剤だそうです」

「伝票を偽造したと言うがその偽造した領収書と印はどうしましたか?」

「病院側が警察に提出したと聞いています」

「ご主人は不正を指示しているのが誰かは言いませんでしたか?」

彼女は首を横に振った。

「聞いていません。院長は警察に調べられたようですが、何もおかしいことはなかったと聞いています。銀行の隠し口座も見つからなかったし、薬の不正発注で何も利益は受けなかったと言うんです」

「それでは誰が利益を受けたんですか?」 

彼女は首を振った。

「私には分かりません。結局不正を働いたのは夫一人だということにされてしまいました。でもあの人は一人でそんな大それた罪を犯す人ではありません。誰かそれを指示した人が必ずいるはずです」

育代は人をそしるのは自分の性分ではないが、と前置きして、院長に対して不快感を露わにし、院長は派手な生活ぶりで有名だと言った。

松野は眉を寄せた。どうやら彼女は夫の勤め先だった病院の院長を疑っている。それを突き止めて欲しいのに警察は取り合おうとはしない。