「わかってます。僕は立派な男になる。父さんみたいに」

ユジンは鼻の先がツーンとした。

郭昌宇は戦後も軍に残り正式な韓国軍の上位にいた。数多くの功績を残したことは言うまでもない。ただ一九三四年の日本人二人の漂流の件に関しては知らされていない。併合統治下、日本軍、韓国軍等に乱れがあったことは否めない。それに郭自身はまだ十代であったからだ。

プサン市内に引っ越しをして五年になる。

武の耕した庭のある家を後にするのは忍びなかったが、両親や、やがて迎える妻のことを考えると便利な街中が良いと思ったのだ。

ピンポーン。白壁にオレンジの瓦を乗せたモダンな家だった。

「はーい」妻ヨンヒが出迎える。後からやっと首の座ったジュンハンを抱いて郭が姿を見せた。

「よく来たね。久し振りに会ったがユジンは変わらないなぁー」

「あら、ありがとうございます。お父様。奥様これを納めてください」

と、持って来た花と祝いを渡した。

「かしこまらないでくれ。お祝いの品々ありがとう。お母様は元気ですか?」

「お陰様でピンピンしています。お子様のお名前は?」

「ジュンハンと名付けました」とヨンヒ。

「サンマン、ジュンハン君だって」

サンマンは目をパチパチしてジュンハンを見ていた。

「サンマン、ご挨拶は?」

「ムクノキサンマンです」

郭もヨンヒもユジンも驚いた。まさか武の名字を名乗るとは予想だにしなかったのだ。

ユジンが聞く。

「サンマン、ムクノキは誰から聞いたのかな?」

「おばあちゃんだよ。いつもおばあちゃんは言ってるよ。李サンマンは普通に言いなさい。でもあなたの父さんの名字は『ムクノキ』なのよ。言いたくなければ言わなくてもいいのですよ。と聞いたからです」

郭は胸が熱くなった。この子なりに大人の会話の中で、何かしら絆を感じ取り、私の前では『ムクノキ』と名乗るつもりでいたのだろうと思った。

「うむ、ムクノキ、サンマン君だね。ちょうど私が日本へ行って君の父さんの武さんと出会ったとき、武さんは九歳だった。今のサンマン君と同じ歳だったのだよ」

「ふーん。父さんはどんな子供だったのですか?」

「……彼はねぇ。とても無口であまり話をしない人だったけど、いつもニコニコして私たちを和ませてくれたよ。花や虫が好きで、よく観察をしていた。私と薬になる草を摘み、畑を耕して野菜を作ったりもしたのだよ。遠い昔のことだけどね」

郭は涙で曇る視界の先のサンマンに武を見取っていた。

「おじさんはお父様の先生だったのですか?」

「そうだね」

「それじゃあ、僕の大先生になってください」

「いいとも。いつでも来なさい。たくさん勉強をしましょう」

ユジンはサンマンを優しく抱いた。