夏美は私の横に腰掛ける。番茶を少し口に含んで、しばし落ち着いてから、夏美は話しかけてきた。

「ねぇ、おばあちゃん。今日は河川調査実習だったんだけれども、根釧原野の川はすっかりきれいな水になっているね。昔はサケの稚魚が死んでしまうほど汚れていたなんて、とっても信じられない」

「昔はね、化学肥料や濃厚飼料をたくさんやっている酪農家が多かったし、牛の頭数も今よりも多かった。河畔(かはん)(りん)はもっと少なかったねぇ。ましてや、コタンコロカムイ(シマフクロウ)が住めるような森とメムはもっと少なかったんだよ」と私。

「今では、どこにでも見かけるコタンコロカムイがほとんどいなかったの?」

夏美は少し驚いたように言った。

「酪農地帯のど真ん中で、コタンコロカムイが住んでいるのは、うちの牧場ぐらいだったかな。もちろん今もわが牧場にカムイは住んでいるねぇ」

「ねぇおばあちゃん。今日の実習は、先生が教えるんじゃなくて、水産クラブ、農業クラブ、家庭クラブ合同で、生徒が自主的に実施している実習なんだけど」

そう言いながら、夏美はずいっと身を乗り出す。

「生徒が自主的に河川調査をするようになったきっかけって、おばあちゃんとおじいちゃんなんだって聞いたんだけど、どんなことがあったの?」

私はちょっと驚いた。まだそんなことを知っている人がいるのだ。

「まぁ恥ずかしい。誰がそんなことを言っていたの?」

「担任の佐伯美保先生。でもちょっとしか教えてくれなかったなぁ」

さらにずいっと身を乗り出して、上目遣いで夏美が迫ってくる。

「やっぱり知りたいな。おばあちゃんの青春時代。ね、教えて。どんなことがあったの?」

孫娘の追求に、私は降参することにした。

「そうね。話せば長い話になるわ」

私は、夫との高校生時代を、夏美に語り始めた。