少女はコートの裾を掴んだまま、男についていく。男は少女のことなど気にせず、ドンドン前に進んでいく。少女は引きずられるようにして、男に必死についていった。

やがて、男と少女は、切り開かれた場所に出た。そこに月明かりに照らされた、古ぼけた丸太小屋が見えた。

男はその小屋のドアを開けて中に入る。急に暗闇から現れたように見えた丸太小屋に目を丸くしていた少女もあわてて男についていく。中は暗くてよくわからないが、埃っぽさから人が住んでいる感じはしなかった。暗闇になれたと思っていたが真っ暗で何も見えない少女は、一層強く男のコートを掴んだ。

すると、コートの向こう側にぼぅっと光が灯った。

その明かりは部屋全体を照らし、小屋の中、全容を少女の眼は捉える。キョロキョロしている少女の耳に「パチッ、パチッ」という水分が弾ける音が入ってきて、身体が温もりを感じた。

男が、小屋の竈に火を点けていた。

竈の前で火の調節をしている男の隣に、少女が恐る恐る近づく。ゆっくりとしゃがみこみお尻を床につけると、そのあたたかさに、少女は睡魔に襲われた。

泣き疲れ、歩き疲れ、恐怖に身体を強張らせ続けた少女は、抗う事もできず、こと切れるように眠りについた。

男のコートの裾を掴んだまま……。

【前回の記事を読む】「あの森に入っちゃいけないよ…」昔、むかぁ~し、一人の少女が…