蒼い風の時代

「なんであんたは話をしないの」

私と純一との出会いは、こんな言葉から始まった。

彼は先ほどまで、私も出席していた大学の「新入生歓迎コンパ」で見た顔だった。

当時、私はひどく人見知りだった。できるなら誰にも気づかれずに、ひっそりと暮らしていたい。今までの学生生活もずっとそうして暮らしていた。それで幸せだった。

類は友を呼ぶ。小学・中学・高校時代。幸いそれぞれに一人はなんとか友を得て、教室の片隅でお絵描きをしたり、読書をしたり、小声で話したりした。スクールカーストは常に一番下であった。しかし、誰にいじめられるわけでもなかったし、誰かにばかにされるのでもなかった。それでいいと思っていたし、なにより平和だった。学校も嫌いではなかったから、欠席もほとんどなかった。それでよかったのだ。

「なんであなたは話をしないの」

もう一度、彼は言った。私の思考が現実に引き戻される。さっきまでの人懐っこい表情とはうって変わって、冷たい目である。

「なんで、あんたにそんなことを言われないといけないの?」

そう言い返したかったが、黙っていた。そもそも、さっきの新歓コンパとかいうものも苦痛だったのに。最初なので、出ないとまずいのかなと思ってしぶしぶ申し込んだが、始まってすぐに後悔した。私のいる場所でないことは、すぐに察知できた。

早く終わることだけを祈って過ごし、終わった瞬間に、逃げるように会場を出た。向かい風を受けて、家路を急いだ。おぼろ月が私を見下ろしていた。駅だ。もう気を遣わなくてもいい。電車を待つ駅のホームで、やっと一息ついたと思ったのに……。

私を見つけた彼は、にこやかな表情で近づいてきた。

「どうか、来ないで」

心の叫びは彼にも神様にも届かなかった。彼は先ほどのコンパでひときわ人気があり、常に話題の中心だった人だとわかった。彼は笑顔を絶やさない。彼は人を楽しませる術を知っている。彼はスクールカーストの一番上の人間だ。

「お願い。私に気づかないで。声をかけないで」

しかし、それは彼にとって、プライドが許さないことかもしれない。なぜなら、彼は誰からも好かれるべき人間だからだ。私がすみれなら、彼はひまわりだ。ひまわりは太陽のもとで、輝くことが幸せだと思っている。だから、目立たず咲いているすみれを不憫に思う。目立つ場所へ連れていくことこそ、自分の使命と信じて疑わない。すみれは、太陽の強い日差しのもとではしおれてしまうというのに。

当然のように、彼は話しかけてきた。最初は「さっきの会にいたよね」というせりふだった。こくりとうなずく。次に何を話したらいいのか、わからない。戸惑っていると、彼は言葉をつないだ。