一陣の風

あなたへの手紙(後半)

あなたに感謝しています。あの出会いがなかったら、私はずっと狭い空間の隅っこで暮らしていたでしょう。

「なんであんたは話をしないの」

この言葉が私に気づきを与えました。この言葉がなければ、私は人との関りをずっと拒否したままでした。あなたに出会い、あなたに恋をした。それが、今の私の原点なのです。

今、私は教育現場で働いています。あれほど、人前で話すことが苦手で、慣れない人と接することを怖がっていた私が先生をしています。笑っちゃうでしょ。そして、人に伝えることを心から楽しみ、子供たちとともに成長できるこの仕事に誇りを感じています。

もし、今あのカフェに行ったら、ワインレッド色のソーダ水が私の目の前に置かれるでしょう。もし、今あなたと出会ったなら、きっとあなたは私に恋をするでしょう。もし、私と結婚していたなら……。もしもの世界は、現実の世界ではありませんね。これからも私の恋したあなたでいてくださることを勝手ながら、願っています。

なんであんたは話をしないの。

私はなぜ話さなかったのか。その答えは、怖かったからです。世界が広がることへの恐怖。人との絆が深くなることへの恐れ。自分という人間の内面を知られることへの嫌悪。

しかし、その壁を取り払ってくれたのが、あなたの言葉でした。おそるおそる踏み出した世界はなんと輝きに満ちていることでしょう。人との関わりは、せつなさとともに、大きな喜びをもたらしました。

私はあなたが私に出会ってくれたことを心から感謝しています。ありがとうございました。

追伸

一度だけ、二人が過ちを冒しそうになった、あの日のことも、出会いの思い出とともに秘密の小箱に永遠にしまって、鍵をかけておきます。

ふみ

早々

野分が近い。風が少し荒れているのを感じます。今からどんな風が吹くのでしょうか。

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※本記事は、2022年8月刊行の書籍『一陣の風』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。