マダムの運転するボルボは、果たして、約束の七分前、十一時五十三分に、玄関に立つ智洋の前に現れた。

マダムは出発して間もなくクルマのスピードを緩めた。

「あっ、そうだ、智洋さん、荷物を取ってくださる?」

道の左側のガードレールに沿って静かに止めた。まるで運転試験場でのテストのように丁寧に。意外に慎重な性格なのかしら……いや、それはない、マダムの運転するクルマに乗るのはこれが初めてではない。きょうは、たまたまだろう。乱暴ではないけど、慎重に運転するタイプでもない。事故りそうになったのかも、昨日とか? それか、違反切符でも切られたばかりなのか……そんなところだろうと智洋は思った。

「はい」

「後ろのトランクにあるから。紙袋、あなたに渡そうと思っていて」

「トランクですね」

「すぐわかると思うわ、それしかないから」

智洋は、膝の上のバッグをクルマの床に置き、手にしていたケータイをそのサイドポケットに滑らせ、そして、シートベルトを外す。

こうやって、人遣いは、荒いと文句をつけるほどでもないが、決して穏やかでも、ない。気軽に人にモノを頼む、というか、言いつける。命令ではないのだが、断りにくい、自然な、指示。マダムと呼ばれる所以だ。

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