日本のゲートはほどほどに込み合っており、俺が並んだ場所では他の職員と違い独自に改造した制服を着た女性スタッフが軽快に帰国者達の列を進めていた。服や髪に自由に装飾品をあしらい、とても入国管理の職員には見えない。ともあれ久しぶりに地球の女子と話す。しかも外向的で見た目も悪くない、俺の最も苦手とするタイプだ。

「次の方どうぞー」と明るい声がかかり、俺はそのスタッフに自分の入国条件を説明しパスポートを渡した。惑星srijpの日本人地区で八年間暮らし、今後はずっと地球に住むことになるだろうと伝えると、そのスタッフが言った。

「ええと、青葉なおゆきさんですね。……地球のご家族のご希望により、ご帰国ということですねー」

職業に不相応な声と容姿、警戒心の欠片も無い笑顔。……この対応はせいぜい地方の市役所か売店並のレベルだろう。地球ではこんなに無防備で友好的な接客で働けてしまうのか。随分と平和になったものだ。パスポートをチェックしながら彼女は手元のキーボードで何やら検索を始め、長々とした文章を打ち込んでいる。胸元の名札を見ると、あざみ野ハルカ……とある。変わった名前だ。文字が三種類も混ざっている。

「……はい! 確認できました。これでもう入国できますよ。どの地区ですか?」

「え?」

俺は女子職員の質問の意味が分からず聞き直した。彼女は丁寧に説明を始める。彼女が言うには、俺がいない間に日本は三つの地区に分けられたのだという。それで今回、どの地区に帰ってきたのか? ということらしい。

「え……? そんなこと、何も聞いてないぞ」

「日本の方とコンタクトはとっていますか?」

俺は、とってはいるが、地区のことなど知らないと答えた。

「あ、なるほど。惑星からでしたよね。地球の詳しい情報は例外を除きできるだけ外部にもらさない仕組みになっているので、惑星に住んでいた方には知らされてませんよね。その間にこっちはバタバタして……。なおゆきさんも、今日初めてご家族から聞かれることになるんでしょうね」

「はあ……」

たしかに母親との会話の際違和感を感じた時期はあったが。それよりもなぜ会ったばかりの彼女に名前で呼ばれるのだろうか。