第1章

―1年後― 四月

公園の最寄り駅に着くといつもよりも人が多く、道もいくらか混んでいる気がした。耳を澄ますと、公園の方角から軽快な音楽が微かに鳴っているのが聞こえた。何か催し物でもやっているようだ。静かな所でゆっくり休みたいと思っていた俺は公園に向かうのを躊躇した。

その場で立ち止まり来た道を戻ろうかと考えていると、公園のほうから人目を引く男が歩いてきた。真正面なので、俺もついその男の顔を見る。すると驚いた事に、男はこちらに穏やかな微笑を向けた。

広い道でその男とすれ違い、男は公園と反対の方向に歩いていった。このまま俺まで戻ると、なんだか今のキザな男を追いかけたみたいに思われそうだ。同性に対してのあの感じの良さに加え、ファッションなどもかなりキメていたことを考えると、万が一、男が好きな奴だったら困る……と俺は思った。

相手には相当迷惑と思われる想像をしながら、俺は思い直して再び公園の方へと歩き出す。公園ではカーニバルをやっており、広場は出店や催事で賑やかである。ぶらぶらと公園内を三周ほどするうちに、一時間弱が経過していた。

「パセリの好きそうなものは無さそうだな」

自分の朝食用にパンでも買って帰ろうと店で見たものをあれこれ回想しながら、ついでに何種類ものビンが並んだワゴンに立ち寄る。ジャムやバジルペーストを漁っていると、隣のワゴンで真剣に商品を選んでいる長身の男が目に入った。行きの道ですれ違った男だと、すぐに分かった。

数種類のビン入りのディップをじっと眺め、買うものを決めかねているらしい。第一印象の通り憎めない人柄のようで、外見だけで気後れする必要はなさそうだな……としばし傍観する。