少女はほとんど(、、、、)、その場から動かなかった。ウサギを見かけた。反射的にウサギを追いかけた。が、母の言葉を思い出し途中で追いかけるのをやめて元の場所へと戻った。一向に木の実探しから戻って迎えに来ない母親に、暇を持て余した少女は母に褒められようと、目に見える範囲の木の実、どんぐりやキイチゴなどを採った。採っているうちに夢中になった少女は、歩を進め、気付けば最初の場所から離れていた。

「おかあさ~ん……!? 」

辺りを見回しても、元の場所へ戻ろうとも、周りは似たような木々ばかり……、少女の声は、森の中に霧散する。

「ふうぅ……、っあああぁ~~……。ヒッ、うああああ゛ぁぁーーー…………」

少女の泣き声もまた、深い森の中に吸い込まれていった……。泣き疲れ、立ち尽くしていた少女は座り込み、日が暮れて、陽の光が差し込まない森の中は急激に温度が下がっていった。

ザワ……ザワ……ザザザ……ザザアァァ……。真っ暗な闇の中で、風で揺れる木々の枝の音が少女に恐怖を与える。寒さだけでなく、恐怖で震える少女はとにかく身を隠そうと思った。闇に眼が慣れ、枝葉から差すほのかな月明かりを頼りに辺りを見回す。そこに、木の根っこにできたくぼみを見つけ、うずくまるように身を収めた。

どのくらいそうしていたのか。辺りで、フクロウの鳴き声、狼の遠吠え、何かの動物の鳴き声や足音、虫が這いずる音さえ聞こえた気がした。少女はそんな中で、じっとしていた。両膝を抱え、採った木の実やキイチゴにも手を付けず手に握ったまま……。

その時。……ザク、ザク、ザク、っと。確かな足音が聞こえた。ザク、ザク、ザク──、その音は徐々に少女の近くまで迫ってくる。ザク、ザク、ザク、ザ──、少女は手に持っていた木の実を離し、目の前を通り過ぎようとした足音の主、黒いモノを掴んでいた。

「……ん? 」

そう発した、足音の正体。月明かりに照らされたその者は、ぼろぼろの黒いコートにフードを目深にかぶり、コートの裾を掴んだ少女を見下ろした。

「……おい、ガキ。何を掴んだのか、わかっているのか……」

そう言った声から男だとわかった。少女は質問には答えず、いや、答える事ができないのか、身体を震わせてカチカチと歯を鳴らしていた。こんな深い夜の中、深い森の中を歩く男の存在を不思議と思う事なく、少女は掴んだコートの男を、ただ黙って見上げていた。