2 光彩

少し散らかしてはいるが、幾何学模様なベッドライトであったり、統一性もあるようなインテリアであるが、少しずつ崩しているし、広がりを持たせる絵画が飾ってあったりと意外にも部屋はモダンである。今、ちょうどベッドから、あくびをひとつして、夢見心地の青年を容赦なく尿意というものが、娑婆というべきが、混沌というべきか、まあ現実世界というものが、青年に襲いかかっていった。

はじめは微睡(まどろ)んでいる余裕があったが、次第にその余裕はなくなり、早足となる。スグルは大学1年生であり、昨日は馴染みはあまり無かったが高校も同じだったサヤカに誘われて、大学から一緒に帰ることになった。考えてみれば、何故、4、5人は同じ大学に進学したのに、サヤカとだけはキャンパスが同じになったのであろう。ユウヤやヒロキ、カオリやユカもいたのに、よりにもよって何故サヤカなのだろうか?

まあ、偶然は必然だとか言われているようだけれども、まるっきり偶然が起こした仕業に違いない。たまたまだ。たまたまたまたまたま? はあ、すっきりした。

青年は、昨日のサヤカとの公園での出来事といい、不可思議な運命というものといい、そんなものはお構い無しに、この尿意が収まった。次は、腹が減ったのであるが、何故、生きている限り、生物の命を頂かねば、殺さなければ生きていけないのか、人々は生きろ生きろ! という……この矛盾のようなどうしようもならない必要性が、今日も屈折して、青年の心を穿(うが)つのであった。

ふぅと、一息をしてその場で立ち止まった。それから、何か、決心するかのように、青年は朝ごはんの準備に取り掛かろうとし、蛇口のハンドルをひねり、水で手を洗った。男の朝飯といったところで、目玉焼きに納豆と味噌汁で十分だと思っている。

親からの仕送りでワンルームマンションの5階でスグルは暮らしている。緩やかな丘の上に位置している為、窓から眺める景色は街を一望することができ、黄昏時には奥の山にうっとりするような薔薇色になって日が沈んでいくのが見える。何かあったときや物思いに耽(ふけ)るときは、この窓辺に立ったり、ベランダに出たりして過ごしている。

青年は白米を薄い唇をした口に掻き込むようにして、食べている。今日も大学に行こうという気になっている、学んでやろう、とも思っているが、それにも増してサヤカの顔が脳裏をかすめてから、この霧のようなものが晴れていかない。何故だろう、思い返せば、二人で手を取り合って、踊ってさえいる。ここで言わなければならないことがある。

普遍的なものが引率していく世界であるのは、百も承知であるが、千、あるいは万として不確かなものが蠢(うごめ)いているではないか。よおく観察したところで、自身で鏡を見ているときのようでもあるし。前途多難な生涯をこの若さで受け入れていくことも、悪いことではないが、少々不気味過ぎるのではないか。きみの瞳のなかに埋もれてしまった光彩のようなものを、原点に立ち還っていく幼子のような瞳を、この作者は僭越ながら取り戻したくなったのである。かなりの実験でもあるし、勇気が、かなりの竜巻が!