携帯エアリー

オレオレ詐欺、集団殺人事件の犯人はすべて逮捕した。あとは裁判と判決による実刑、そして彼らの辛い刑務所暮らしが始まる。省吾は刑事仲間と携帯エアリー、ドッグを使い犯人逮捕に明け暮れる毎日。借金の返済はまだまだ続くところだったが、山川に話しかけた。

「山川さん、僕はやっぱり刑事辞めようと思うんです」

「えっ? おいおい、お前に辞められたらエアリーがなくなるだろ? エアリーがないとこっちも困るんだよ」

「そうなんですがね、僕もやりたいことがあるんですよ」

「そうか、しょうがないな。うーん、じゃあ、俺たちでエアリーを買い取るってわけにはいかないか?」

「いいんですか?」

「みんなに聞いてみないとわかんないけどさ、借金の残りはいくらくらいあるんだよ」

「そうですね、えーっと、元金で百二十万ですかね」

「そうか。一人二十万ずつか。今まで相田が払った分も渡さなきゃな」

「それはいいです。まだ使いたいですから百二十万を売ってくれた人に渡しますよ」

「わかった。みんなに聞いてみるよ」

山川は省吾がいなくなるのは残念だったが、省吾にもいろいろと事情があると思い、止めなかった。省吾は幸子に電話してみた。

「はい」

「もしもしおふくろ?」

「なに、あんた、珍しいじゃん」

「あのさ、そっちはどう? 人手不足じゃない?」

「そりゃあ、毎日てんてこまいだよ」

「俺も手伝いに行くよ」

「いいよ。あんたは刑事の仕事やってればいいんだよ」

「誰か、人入れるのか?」

「うーん、やりたい人が現れればいいんだけどね、なかなかそんな都合よくやってくれる人なんて現れやしないよ」

「俺が行くよ」

「いいよ。そんな名刑事に畑仕事なんてやらせたら警視庁の人たちに怒られちゃうじゃんよ」

「いいんだよ。俺、刑事辞めるからさ」

「はっ? 何かあったのかい?」

「俺の心はあんたの心とおんなじなんだよ。俺の知り合いも近いうちそっちに手伝いに行くからさ。住みこみで最初は若いの四、五人。あとから十人以上行くからな」

「はっ? ふざけたこと言ってんじゃないよ!」

「ふざけるよ。あんたもふざけてばっかじゃん!」

「わけわかんないけどさ、結局、何の用で電話してきたんだい?」

「あのさ、俺の捕まえた殺人犯のやつらがさ、集団殺人で、出所してから仕事がないんだよ。どこ行っても受け入れてもらえないの。だから……」

「はっ? ちょっと、いきなり何? こっちは身寄りもない子を預かるんだよ。それだけでも大変だってのに、そんな、刑務所から出所した前科者ばっかこっちで面倒みろってのかい?」

「おふくろ、そういうの得意じゃん! 昔っからかわいそうな子供とか年寄りとか助けてたじゃん!」

「それで、イケメンのお兄さんもいるのかい?」

「いるいる。俺なんかよりももっと格好いいやつもいるよ」

「そうか、しょうがないな。うーん、じゃあ、面接して合格したらこっちで雇うよ」

「えっ? ホントか? 俺ももちろん入れてくれるよな」

「いいよ。重労働で安月給だけどね」

省吾はホッとした。しかし、幸子はわかっていたのだ。省吾の性格も、そして省吾が何をやりたかったのかも。