【前回の記事を読む】仏教の解説書への疑問「仏陀は本当にそんなことを説いたのか?」

第2章 仏陀の言葉の本当の意味

1 諸行無常

諸行無常は、パーリ語では、sabbe saṅkhārā aniccāと書きます。一切の形成されたものは無常である、と訳されています。

諸行はすべてのものごと、現象ということです。それでは、無常とは何でしょうか。

多くの人は、無常とは、『変化して止まないこと』だと思っています。ところが、仏陀は、『無常であるものは苦である』と言います。

『無常』が変化して止まないことであれば、変化することが苦であるということになります。しかし、変化すること自体は苦であるとは言えません。

例えば、満開の桜を見て楽しみます。その桜が散ってしまうと、淋しさという苦を味わうかもしれません。しかし、枯れ木のようになった桜の木は、春になったらまた多くの花を咲かせます。この場合、花がない状態から花が咲いた状態に変化していますが、苦ではなく喜びとなります。

このように、変化には喜びをもたらすものがありますから、無常というのは変化という意味ではありません。

無常とは、生じれば滅する、と言う意味です。つまり、無常の法とは生滅の法のことなのです。

もろもろのつくられた事物は、すべて無常である。

生じては滅びる性質のものである。

それらは生じては滅びるからである。

それらの静まるのが、安楽である。

─相応部経典 第1篇 神々についての集成

すべての現象は、生じれば必ず滅するから苦なのです。これを、仏陀は、『無常であるものは苦である』と言いました。すべての存在は、生じた途端に滅に向かっているのです。ですから、苦なのです。愛着を持っていたものが壊れていく、これは苦です。とても愛していた人が死んでいく、これも苦です。なにより、自分の肉体は滅に向かっていき(これを衰滅といいます)身体の不調が多くなり容貌も衰えていきます。そして死んでしまいます。すべて苦です。

つまり、無常とは、変化して止まないことではなく、生じたものが必ず滅に向かっていくということだと私は考えています。