第二章 協調性と独創性「人間」考

あいさつ

J医院では医師に診察治療してもらうのは普通は朝の担当医師グループによる回診であるが、看護師には二四時間お世話になる。同室の患者でも担当看護師が同じとは限らないので、日勤と宿直の担当看護師が「今日(今晩)担当のXXです。よろしくお願いします」などとあいさつに来る。医師でも看護師でも患者と対等に接してくれて、親身な感じを受けることが多かった。

時々医師でも看護師でも担当が違うとあいさつをしない人もいるが、あいさつは担当職務を越えたもので、人間の感情に多大な影響力があり、決しておろそかにできないものである。余裕のない人ほど、あいさつまで担当患者中心になりがちであるが、あいさつは顔を合わせたらお互いにすべきものと考えたほうがよい。

あいさつ一つで人間関係が開かれたり、逆にあいさつしなかったために「いやな奴だ」と思われかねないので、あいさつこそはコミュニケーションのアルファでありオメガである。

また注射や採血のような日常的な技量が優れていると患者は安心して腕を出すことができる。もちろん高度な医療技術に熟達することが患者の命を救うことになるが、患者は注射や採血のような簡単な技量の上手・下手によって医師や看護師の力量を判断しがちなので、日常的な技量もおろそかにはできない。いくら血管が出にくい患者だとしても一回目、二回目とも注射を失敗して、三回目ともなれば「先生、三回目ですよね」などと言われて医師の権威にかかわるかもしれない。

医師は、ある意味では職人的な側面もあるので、自分が不器用だと思う人は人一倍の研鑽を積む必要があろう。人には器用不器用はつきものだが、J医院では豊富な臨床経験のチャンスがあるので、有能な医師養成システムが確立しているとみてよいだろう。腕の良い医師が謙虚で、あいさつなどを初めとするコミュニケーション能力も身につけているともう鬼に金棒である。