東大の人工衛星取材チームに参加

入局5年目から私は糸川博士が始めたロケット開発の勉強会に参加し、秋田県能代市に新設された東大ロケットエンジンのテスト場で人工衛星の打ち上げに使う新型エンジンの噴射実験を取材し「科学時代」で放送していた。もし人工衛星の打ち上げに成功すれば日本は米ソに次ぐ世界で3番目の宇宙大国にのし上がるので国民の関心も高かった。

報道局では衛星成功と同時期に放送すべく「宇宙時代」という海外取材のシリーズ番組まで企画していた。しかし、今になって考えてみれば日本の成功の確率はきわめて低かった。その理由は日本の衛星が地球を回る軌道に入る時の姿勢制御に使うのは「地球の引力」で、米ソのような電子的な姿勢制御装置を開発していなかったからである。

それは糸川チームに開発能力が無かったのではなく、開発禁止の状態におかれていたからであった。今だから言えるが、その張本人は我々の労組のボスたちで、彼らの参加した社会党が軍事に通じる技術だという理由で開発に反対したために糸川博士たちは自然の引力に頼る以外になかったのである。

それは、ちょうど新型コロナを抑え込む方法を熟知していても、小池東京都知事たちが罰金手段なしで思いを果たせなかったり、新型感染症にはワクチン開発技術が欠かせないのはずっと以前から分かっていたのに一部野党の反対で、ロシアや中国にさえ後れを取った現実も人工衛星失敗のケースとよく似ている。