シリアの出国手続きは終わったのに、なかなかイラクに入国しない。そのうち、砂漠の暗闇の中に灯りが見えてきた。トレーラーバスがガクンと止まり、乗客がみな降りていくので、イラクの入国手続きかと思ってあわててバスの外に出る。

何のことはない、「峠の茶屋」ではなく「砂漠の中の茶屋」である。夕食のための停車だ。シリアの出国手続きは二時間前に終わったのに、ここはまだシリアで、通貨は当然シリアンポンド。しかし、われわれはさっきの出国手続きのときにシリアの通貨は全部使ったのでお茶一杯も飲めない。

しかたがないので外に出て夜空を見上げると、冬の砂漠の空はきれいに晴れ渡って、半月の月が明るく照っている。満天の星もきれいだ。昔の人も眺めた星が変わらずに空にあって輝いている。夕食も終わってトレーラーバスは再び出発。

さすがに真冬の砂漠の夜は冷え込む。車内は暖房をしているのだろうがあまり効かず、おまけにどこからか冷たい風が入り込んでくる。寝袋を取り出して腰から足をくるんでみるが、足の先が冷えてきて感覚がなくなってくる。ひどいバスに乗ったもんだ。

二十三時半に、やっとイラクの入国審査所に着く。シリアの出国手続きを終え、砂漠の中を五時間余り走ってから、ようやくイラク側に着いたことになる。バスの運転手が客車両にやってきて、乗客全員の入国申請書とパスポートを集めて持っていく。

その後、乗客がバスを降りていくので、何のために降りるのかはわからないが皆の後をついていく。建物の中に入ると、一名ずつ名前を呼ばれ、係官に質問されて、その結果に対してサインしている。もちろん、待っているこちらはアラビア語がわからないので、何を質問されているのかわからない。最後にわれわれ。何のことはない、荷物の個数を申請し、それに対するサインだ。

※本記事は、2021年9月刊行の書籍『国境』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。