常雄ははじめて明夫の顔をまともに見つめ、まだ思い出せないらしく、明夫が手にしている教習生手帳を取って氏名の欄を見た。彼の顔がはじめてほころび、笑顔となった。

「あ、何だ、何だ。小林君か」

さっきと全く違って目が輝いていた。明夫を見つめる彼の目には何か驚きのようなものがあった。中学時代の明夫は目鼻立ちの整った小柄で子供っぽい少年だった。それほど経っていないといっても、この七年間の変化は大きい。どちらも同級生だったことに気づかなかったのだから、おあいこというべきだろう。

「今、どこに通っているんだね」

「大学生さ」

「そうか、そうか。となるとひょっとしたらもう就職する頃じゃないか」

「実はそうなんだ。もう四年生だからね」

「で、就職はもう決まっているのか」

常雄ははなから遠慮会釈もなく、今明夫がもっとも気にしていることを訊ねてきた。でも常雄なら隠すこともない、いずれ常雄のことも聞いてみたい、そのためには自分の情報も開示しておくべきだろう。

「うん、まあね。一応、東京の会社に内定してはいるよ」

「ほう、ご機嫌だね」

常雄はその後も明夫の就職先が気になるらしく、あれこれ訊ねてきたが、明夫自身まだ就職したわけではないから、入社してからどんな業務に就くかは分からなかった。