「…………」

「他に盗賊役をやりたい人はいませんか?」

僕はとても恥ずかしくなり俯いた。この時に思った。僕には自由の制限があるということを。少なくとも今は体の性別に適した生き方をするべきなのだと幼いながらに自覚させられた。だから僕は周りの女子に合わせてヒロイン役に立候補してみた。その役に僕が指名されて周りの女の子たちは羨ましそうにしていた。なぜならその役の衣装が一番かわいかったからだ。

劇はつまらなかった。僕は盗賊の衣装が着たかった。とても。しかし僕が穿いているのはフリフリのスカートだった。その格好が恥ずかしくて嫌だった。

劇が終わり、盗賊役で使用した段ボールの刀をもらった。その時はすごく嬉しかった。僕はそれをおもちゃにして一人遊びをした。僕は海賊の主人公。この刀で闘って、宝物を手に入れるんだ。僕はテーブルに上がって刀を振り回した。

僕の初恋は五歳くらいだった。当時、僕はアニメの『ゴーストスイーパーGS美神』という番組が好きだった。理由は、その主人公がとても美人だったからだ。僕はその主人公に魅了され、アニメを見るたびに主人公の一つ一つの仕草にドキドキしていた。大きな胸、スラッとした長い脚、キラキラした目をしていた。

そして僕は初めて空想の世界を作り上げた。空想の主人公は、僕の心を持つ男だ。そのヒロインは、アニメキャラクターの主人公。彼は空想のヒロインに似合うルックスで年も二十代だ。主人公の名前は、希望に成ると書いて成希(漢字は後に付けたもの)。僕の初恋と共に誕生したのが成希君だった。成希はアニメキャラクターにベタ惚れだった。

最初に現れた成希の世界はアニメの中だった。成希は強くて男らしかった。描かれる世界の中で彼女の温もりを想像した。抱きついてみたい。そして悪戯をして彼女の気を惹いてみたい。もっと触れたい。僕は目を閉じて布団を抱いた。想像力の豊かな僕はそれだけでとても満たされた。まるで彼女を抱いているようだった。とてもドキドキする。その気持ちは僕を虜にさせた。

それは初めて経験する感覚だった。嬉しいとか楽しいとかわくわく感とも違う。ちょっと切ないのに、明るくて全ての楽しい感情が僕の心を支配する気持ち。前向きになれる不思議な強さがみなぎってきた。これに名前をつけるなら恋というのだろう。きっとこれは僕の初恋だ。

それから僕は二つの世界の中で生きた。朝は恵子の世界、夜は成希の世界。恋は僕に快楽の世界を教えてくれるとともに「もっともっと」という強い欲求も備わってくる。それでも僕にとって、二つの世界は新鮮でとても楽しかった。