大晦日には数百台が集まる広い駐車場に今は数台の車しかなく僕らは寺院へと続く石段のすぐ横に停めて登り始めた。下から見上げた時はゴールもおぼろげにしか見えず、石段が永遠と続いているように思えげんなりしたがスタスタと登り始めるずずさんを一人で行かすわけにもいかずここまで来た。

スマホをしまい改めてここ数ヶ月ずっと痛がっていた左足を見る。最近は屋内を歩のも少し辛そうで眠れないほどの痛みもあったため途中でやめるだろうと思っていたが情けないかな、ずずさんは僕よりしっかりした足取りで石段を登って行った。ようやくゴールが見えてきてラストスパートをかけようとした途端「あんたはここまで」と僕を制止し一人で登り続け寺院まで残り数段というところで立ち止まって振り返った。

「私はここまで。あんたはちゃんと上まで行くんだよ」

ずずさんの言うこと、やることは昔から時々分かりづらい。

「はい? あと四段だよ。登らないの?」

数段先のずずさんに問いかける。ずずさんは笑っているのか泣いているのか暗い中では分からない表情で遠くの空を見つめた。その瞬間強い北風が階段を上から下へ吹き抜けていく。頭から足先まで駆け抜けていく冷たい北風に刺激され、絶望に支配されていた思考が急速に回り始める。それはまるでずずさんと過ごした三七年の記憶を呼び起こすかのように。

そう……これは人生の期限を明示された母へ送る惜別の手紙ではない。一人の人間が経験するにはあまりにも残酷で数奇な運命の中にあっても、いつも笑顔と愛情を絶やさなかった偉大なる女性と、その下で胡座をかいて甘え続けた愚かな息子が家族であることを諦めなかった、不器用な親子の記憶の物語。