第三章 にゃん太郎の毎日

クロと呼ばれて別宅通い

実は俺には榎本さんち以外にもう1軒家がある。いわゆる別宅だ。愛人宅なんかではないよ。

ご主人と奥さんと子供がいるごくふつうのお宅だ。小林さんというんだ。榎本さんちからの距離は20メートルくらいか。榎本さんちの前の道を2軒ほど先に行くと、右に曲がる道があって、小林さんちはその道沿いにある。塀も低く、昼間はいつも居間の戸を開けていて、オープンな感じの家だ。

ふつう、よそのお宅を訪ねる時は、玄関のブザーを鳴らして、家人に出て来てもらうだろ。小林さんちはその必要がない。道端から声をかけて、そのまま話ができる気安さがある。居間の戸が開いているから、俺も遠慮なく気軽に居間に入るんだ。

小林さんちには1日に一度は寄って、おやつをもらって昼寝をさせてもらっている。奥さんがお客さん用の座布団を勧めてくれ、もてなしてくれるんだ。

俺は小林さんちと榎本さんち二股をかけているつもりはない。「飼い主は榎本さん」と自覚している。けれども小林さんちともお付き合いしていることは、何か悪いことをしているようで、気が咎めて知られたくはなかった。

幸い、榎本さんも小林さんちの前の道を滅多に通らないから、俺の別宅通いはばれることはないだろうと高を括っていた。