ある週末、大地は友人宅へ出かけた。涼しい月夜だった。自転車をこぎながら、また胸騒ぎを感じていた。嫌な感じの胸騒ぎだった。希望の胸騒ぎではなく、傷つくことを予感させるような胸騒ぎ。それを振り払うように、友人たちとただ笑った。友人の一人が、性的サイトを見ているようだ。やりたいやつらばっかで、男が集まるとこういうことで盛り上がる。体験談を語り合ったり、互いにどうやって女性を喜ばせるか、勉強するのだ。本当に好きな人とのセックスがどんなに興奮するものなのか、どうやって優しくしてあげるのか、大地も興味があった。

「かわいくねー? すげー」

友人の一人が、大地に同意を求める。大地は、いつものようににやけながら、友人のスマホに目をやった。その瞬間、友人のスマホを奪い取って、すばやく立ち上がり、そのスマホの画面を凝視した。

「え? え? ウソだろ……」

絶句した。想いを募らせている相手が、若い男に愛撫されている。裸で喘いでいる。

「なんだよ……これ」

隣で友人が、大地に何か話しかけているが、全く耳に入ってこない。頭が真っ白になるというのは、こういうことだろう。なんでこんなこと……なんで……、大地は、身勝手にも裏切られたという気にさえなった。見たくないと思った。見てはいけないような気持ちにもなった。見ないでと言われているような喘ぎ声にも聞こえる。怒りもこみあげてきた。

最初は、自分を責めた。別にどうでもいいじゃないか、つきあってるわけでもあるまいし。忘れよう。彼女のことは忘れよう。でも、なんで……。なぜか、ほっとけない。ほっとけなくて、たすけられないか考えたりしてしまう。AV女優になりたいのか。そういえば、武士がモデル事務所にどうとかと言っていた。もしかしたら仕事なのか……。そんな仕事もしなくちゃいけないのか……。そう考えるようになるまで、数日かかった。

グラウンドの真ん中にひとりぼっちで立ちすくむ彼女を何度も思い出してしまう。まだ彼女のことは何一つ知らないのに。会いたい気持ちがまた、募る。守りたいという感情さえ生まれてしまった。まだ、彼女は大地のことを知らないのに。会いたい。こんな気持ちを、大地は初めて味わった。