知らぬ土地へ来て、友達はいない。何かあっても相談できる人は一人もいなかった。実家の母になどましてや言えない。心配をかけたくなかった。自分のことは全部自分で考え導かなければならないと思っていた。

生きることは、修行である。孤独を知ることは、私にとって必要なことなのだと受け入れようと思った。孤独ではあるが、絶望感はなかった。生きるのを止めたいと思ったが、死にたくはなかった。私は、弱くはないのかもしれない。

気がつくと、一筋の涙が目尻を伝って枕を濡らしていた。伝った涙は温かい。まだ大丈夫、私は生きている。その温度は、心地良かった。少しだけ眠りについた。

その夜、夫はとうとう帰宅しなかった。無断外泊。

朝六時。玄関の引き戸がガラガラと音を立てた。夫が帰ってきた。苦虫を噛んだ顔をしていた。不機嫌な声で言った。

「今からゴルフだから」と一言だけ。部屋へ行く途中、夫とすれ違った時にファンデーションと香水の混ざった匂いがした。

その時、私の戦闘モードのスイッチがオンされた。私は、玄関と廊下にモップがけをしていた。それを竹刀の構えのまま夫めがけ大きく振りかざした。

「何、朝帰りしてるの! 今からゴルフ? ふざけないで‼」

大声で怒鳴っていた。私の血液は逆流した。頭がグラグラしていた。涙が溢れ出た。顔面くしゃくしゃになっていた。昨夜の携帯の女の声と、ファンデーションと香水の混じる匂いと朝帰りとジグソーパズルのピースが一つに繋がった。浮気している! 直感はハズレない。

夫は、部屋からゴルフバッグを片手に提げ、さっき入ってきた玄関から再び出ていった。

私の怒りはすぐには収まらなかった。自分勝手に自由気ままに生きている姿は理不尽である。己の快楽しか求めず家族のことなどお構いなしで人間としての価値が全く見いだせない軽蔑しかない。私もここから早く脱出したいと思った。

冷静さをとり戻してこう考えた。人は完全ではないがゆえに、時に誤ちを犯すこともある。夫も一時的な感情に流されて、他の女と関係を持ったのかもしれない。ましてや相手は飲み屋の女ではないか。商売でお金目的である話はよくある。世間一般的で言うなら、遊ばれているのかもしれない。

確かに夫は女好きである。舅に似てしまったのだ。悪いところが似ると言うのは本当なのかもしれない。浮気の行方は、行方不明のままにする方が平和な選択だと考え納得できないまま強引にフタを閉めた。

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※本記事は、2020年10月刊行の書籍『プリン騒動』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。