眉間にシワを寄せ険しい表情をしていた。暗い闇の、言いようのない不安と不気味さを感じた。私には、心の準備がなかった。今、確かに私が聞いた言葉は、日本語だったが通訳が必要なくらいに意味不明な困惑と違和感を全身に感じた。聞き返すのは恐怖に満ちていた。

また、冗談でしょう? と笑って聞き流すには無理があった。私の心に鉛の杭がガンガン打ち込まれた。鋭いナイフで刺された激痛が走った。私は、マッハで自分独りの気持ちの中で整理しなくてはならないと感じた。痛みを一瞬なくすために、コールドスプレーを自動噴射した。

痛みがお腹に感じないようにしたかった。宿った命に気づかれないようにしなければ。表面の感覚は麻痺したが、体内では大量の血が流れていた。熱い液体が上部から下部へと心臓をなぞった。目からはなぜか透明な液体は流れては来なかった。人前では涙は見せない自分なりのプライドがあった。

お腹の赤ちゃんに母の動揺を悟られまいと平常心を保っていたかった。この目の前にいる人は一体誰なのだろう? 自分が言ったことの重大さを理解しているのだろうか? 

この世の中には、親と呼ばれていても子供に責任を負わない人がいる。我が子に愛情を感じない親がいる。児童虐待、育児放棄も近年よくニュースで見る。しかし、ごく一部でしかない。その一部のまさかである。

まさか、この人も子供嫌いだったとは知る由もなかった。どうして? この時は、本人に聞く気力がなかった。午前中の歓喜の心と同日夜にはブラックホールの無限大のショックを味わった。

精神が分裂を始めていた。私は母である。この子は私が守る。何があっても守りぬくと、誓った。心がスピーディにさらに細胞分裂をしていた。痛みをミクロにするために。

これからが、更なる試練の時をむかえようとしていた。先のことは誰にも分からない。分からないから生きていけるのかもしれない。この痛みに耐えられたら、陣痛も出産も我慢できると思った。

産婦人科には、定期的に通っていた。
三回目の診察の日、先生から嬉しい言葉を聞いた。

「赤ちゃんは二人いますね。双子です」
先生も少し驚いた様子だった。
「えっ? 本当ですか?」
再度確認をする問いかけをした。

「性別はまだ分かりませんが、二人です」
「いっぺんに二人授かって嬉しいです!」

先生も看護師さんも、心から喜んでくれた事がどれほど私の励みになったことだろう。双子は、夫の親戚にいるので不思議ではない。男の子二人か女の子二人かどちらかなと考えたら楽しくなった。おそろいのベビー服にしたら可愛いし、色違いでも可愛いとあれこれ想像したら楽しくて仕方なかった。私は世界一幸せだ。

先生は、大きい病院の産婦人科に紹介状を書いてくれたので大学病院でこれからの定期検診と出産に臨むことになる。通院するには今までより距離があり時間もかかったが、他の面では安心だった。医療設備・医師・看護師・スタッフが揃っている。私は出産前の二カ月間そこで生活をすることになる。

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※本記事は、2020年10月刊行の書籍『プリン騒動』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。