午前八時三〇分は、消防官たちの勤務がスタートする時間だ。隊員たちが車庫前に整列し、前日の勤務者から申し送りを受ける「大交替」が始まる。

現場に出る消防官には階級がある。下から順に、消防士・消防副士長・消防士長・消防司令補・消防司令と続いていく。通常、現場に出ていくのはこのあたりまでとなっている。消防士長以下は「隊員」、消防司令補が「ポンプ隊長」「救急隊長」「はしご隊長」などの車長と言われる階級である。

その部隊をまとめているのが、消防司令の階級を持つ「大隊長」、つまり、当直勤務の責任者だ。その上の消防司令長以上は、消防署の幹部として署内の幹部席でどっしりと構えている。

当直勤務がスタートする大交替では、消防士長の階級にある隊員が、前日の勤務者からの連絡事項を本日の勤務者に伝え、本日の業務を確認する。

「四月一日、二部から三部への申し送りを始めます。昨日は、火災なし、救助活動一件、ドア施錠中の内部急病人。それから危険排除一件。内容は事故車両からの油の流出。油処理剤で対応。救急は十件九名、不搬送の内訳は本人拒否」

前日の災害状況が共有される。消防活動は、火災の消火だけでない。火災報知機のベルの鳴動を確認に行ったり、既に関係者によって消火済みの火災の調査に行ったり、実に様々な活動がある。災害対応以外にも、建物の消防用設備の査察や、市民の防災指導などの災害を未然に防ぐための仕事もある。

「それから、本日は定期人事異動だ。ウチの部には、三月いっぱいで定年退職した救急隊員の石打さんの補完で、予防課から救急隊員が一名配置になった。赤倉副士長、前に出て、申告するように」

当直の消防士長に促され、舞子は前に出た。

「相互に、敬礼」

当直士長の号令で、一同が右手を右眉付近に挙げる。

「申告いたします。消防副士長……」

『ピー、ピー、ピー。ピーポー。救急入電中』

舞子が申告のセリフを口にしたのと同時に、救急出場の予告指令が署内に流れた。今、本庁の災害救急情報センターで一一九番通報を受けており、間もなく救急隊に出場指令がかけられるという予告である。

「さっそく、来たな。行くぞ」

菅平が、舞子を救急車へ促す。救急機関員の岩原は、通信室に向かい、自分専用の地図を開いている。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『東京スターオブライフ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。