【前回の記事を読む】幻聴や金縛りに苦しめられ…親の離婚が「私」に残した心の傷

第二章

兄は東京の大学へ進学し、先に家を出た。父がいなくなってから兄とは喧嘩ばかりで、そこには昔のような仲良し兄妹の姿はなかった。喧嘩別れのまま兄は高校三年生の時に寮に入ったため、上京をするとなった時も見送りには行かず、最後までほとんど他人のような関係になってしまった。

高校生になった私はヴィジュアル系バンドに熱を上げていた。独特の病んだ歌詞を聴きながら自分の境遇を重ねては同調し、その世界に浸る。当時流行ったモバゲーというSNSを通して、同じバンドが好きな者たちが集う「サークル」に参加し、私の毎日は充実していた。

学校でも家でも布団の中でも、携帯を片時も離さずに「モバゲー」にログインする。モバゲーの中の世界は明るく輝き、もう一つの居場所がそこに存在していた。家では母と口をきかず、ヴィジュアル系バンドのCDを聴いたり、音楽雑誌を読み耽ってはお気に入りのバンドメンバーを探したりして、時間を費やしていた。

ヴィジュアル系バンドに没頭したことをきっかけに、同学年で別クラスの女の子と仲良くなった。私の周りでヴィジュアル系バンドが好きなのは、私を入れても三人ほどしかいなかったので、貴重な友人だ。

その子の繋がりで高校生が主催するライブに出向くようになった。モバゲー内でのサークル活動や友人達との関係も安定した頃、モバゲー内で特に連絡を頻繁にやり取りする男性がいた。

彼の好きなバンドの歌詞から取って「☆春雪☆」という名前で登録していた。春雪の本名は祐介といい、年齢は六歳年上の二十三歳、市内に住んでいて、写真を送り合ったので、お互いの顔とある程度の情報は知っている。茶髪で切れ長の目に高い鼻、面長の輪郭が私にはないシャープさを持っていた。

私は「リナ」のままで登録していたので、呼び方は変わらなかった。顔を公開する時は、部屋の照明に顔を近づけて携帯を斜め上から角度をつけ、何度も撮り直して、最大限に可愛く写った一枚を送った。二時間も費やした甲斐あって「可愛い」と褒めてくれ、少しにやけてしまう。素性を明かしていくうちに連絡の頻度も上がり、通話する仲となる。