私は最悪な気持ちで帰路についた。
帰り道、舞はまだ泣いていた。話しかけても何も答えられなかった。
しかし、泣き顔はまるで狸のようで、つい笑ってしまった。彼女は怒り、私に言った。
「だから、なかなか誰からも好かれないのよ！」
舞は、泣いた顔は狸だが、怒った顔は猿みたいで、また笑えた。
「たまにきちんと話せば、そんなひどいことを言う！ いい加減に、人をからかうような言い方はやめなさい。冗談にもほどがあるわよ！」
私には、からかうつもりも、冗談を言ったつもりもなかった。ただ、思ったとおりに言っただけだ。
だけど、彼女が言ったように、私が誰からも好かれていないのは事実だった。
舞はいい人だ。思ったことを遠慮なく言う私に、舞も遠慮なく返してくれる。ケンカはしょっちゅうだが、舞は頼りになる唯一の同僚と言えるかもしれない、と思えてきた。
私に起こった最近の出来事を、話したいと思える人は、今は彼女以外にはいない。
今、彼女に話すべきか？
迷ったが、その場は別れることにした。
気後れせず話せる相手を得た気がしたのは、実は初めてだった。
舞は職場では一番話しやすいから、つい言いたいことを言って、怒らせていた。私に気に入らないことを言われても、怒ってそれで終わりにすることが、舞ならできた。さっぱりした性格なのだ。
メールアドレスも、彼女のものしか私は知らない。
仲がいいわけでは全くないが、お互いに頼らざるを得ないこともあった。仕事の効率を上げるために、話し合ったこともあったのだ。その後ケンカになっても、いい加減に済ませないよう、彼女の話もしっかり聞いた記憶がある。
ただし、彼女は私のことを、
『大嫌い！』
と、言うから、私も、
『お互いさま』
と、言い返していた。
彼女しかいない、と思った。
ケンカばかりしていたが、彼女からは、無視されるという『攻撃』はなかった。
そうだ！ 舞こそ、忌憚なく話し合える相手ではないか！
私は見逃していたのかもしれない。遠慮なく話し合える相手は近くにいたのだ。またケンカになるかもしれないが、舞に明日会社で話そう、と思った。
マンションの窓から絶え間なく流れる車のライトに、以前は悩ましいと感じたほどの日常を、今日、初めていいなと感じながら眠りについた。
