元々は自分のために書いていた応援歌

道端:大黒さんはこれまでに、心を鼓舞する歌をたくさん発表されていますよね。私は大黒さんの「ら・ら・ら」が大好きで、年間歌い続けてきたファンの一人。大黒さんの曲を歌うとみんなが笑顔になり、やる気が出ます。そのエネルギーやパワーの源となるものはあるのでしょうか?

 

大黒:意外かもしれないですが、本当の私は気が小さくて、暗くて、ネガティブなんです(笑)。3歳からピアノを始めて、言葉を話せるようになったのがほかの子より遅かった私にとっては、言葉ではなくて音楽が第一言語でした。

私の母は家業の忙しさからいつもヒリヒリしていましたが、鼻歌を歌っているときだけは笑顔になったんです。そこで「ママが笑顔になるように、鼻歌でも歌える良い曲を作ろう!」と思ったのが、作曲するようになったきっかけ。

私はそうやって、何でも音楽で切り抜けてきました。根暗でもピンクレディーの真似ができるだけで同級生から一目おかれたし、好きな男子にはラブソングを作ってプレゼントした。だから、元々は自分を鼓舞したり、自分のフラストレーションを吐き出したり、自分を救うために曲を書いていたんです。

本当は、応援するよりも応援されたい人なんですよ(苦笑)。なのに、いつも女子会では自分が喋るタイミングを失って、みんなの悩みを聞いてあげる側になっている。私の歌はそうした身近な人々を題材にして、勇気づけるために書いていることが多いんです。「あなたたち、私の悲しみを知らないでしょ?いつも言う隙がないから言えないだけで、私だって悲しいんだよ」と言ったこともあります。

道端:私も経営者として人をまとめる立場なので、自分の弱みを見せられないという苦悩はよく分かります。人間不信に陥って、事業を1年間休んでいたこともありました。大黒さんも今まで生きてきて、逆境に立たされたことがあると思いますが、どうやって乗り越えましたか?

逆境を乗り越える秘訣は何にでも感謝すること

大黒:病気で2回目の手術後、呼吸困難により死に目にあった時は、「もう死ぬかもしれない。生き残っても、二度と歌えないかもしれない」とまで思いましたね。

6年も活動休止していたことにより、「大黒摩季」は世間からすっかり消えてしまったので、ゾンビみたいに1回死んで生き返ったような感じでした。すると、歌えるだけで全てが有り難い。「ヒット曲を出さなければ」という呪縛に囚われていたけど、完全に無欲になったんです。生きているだけで有り難い、人に必要とされるだけで有り難い。

昔は、人から言われた通りにやりたくないという反発精神があったのに、嫌なことを頼まれたって、「何でもレッツトライ!」と思えるようになりました。

 

道端:無駄なこだわりをなくして、何にでも感謝することで逆境を乗り越えてきたんですね。それでも日々のバイオリズムの中、落ち込むようなこともあるのかなとも思います。日常生活で、モチベーションを保つために心がけていることなどありますか?

大黒:1つめは、美味しいものを食べたり飲んだりすることです。夏だったらラテンミュージックをかけて、大好物の水牛のモッツァレラチーズでカプレーゼを作って、自宅で育てているバジルをトッピングして。バルコニーでそれを食べてモヒートを飲んだら、もう最高。「私、イカしたラティーナ♥」なんて気分になって、テンションが上がります(笑)。単純って楽しいものですよね。

なんでも完璧にやらなくていい 人に頼めることは頼む

 

大黒:もう1つは、無理をしすぎず他人に頼めることは頼んでしまうこと。女性って欲張りで、何でも完璧を目指しちゃうじゃないですか。「いい妻でありたい、いい母でありたい、いい娘でありたい、いいビジネスウーマンでありたい」って。

私は音楽学校の講師も務めていますが、生徒には「5つ同時に進めて全部中途半端になるくらいなら1つずつ順番に、今日やるべきことだけを今日中にみっちりやりなさい。今週は歌だけ、来週はダンスだけ。そしたら1か月後は4つが物になっているでしょ。残りの1つは、私が期限を延ばしてあげるから」というふうに指導しています。こ

れも病気を経験したせいなんですけど、自分の弱さや危うさ、限界を思い知ったんですね。それからは、ヤバいと思ったらすぐ人を頼るようになりました。自分でヘアメイクから衣装のスタイリングまで全部やってしまうアーティストもいますが、私のヘアメイクさんは、「摩季ちゃんは自分でできるようにならないでね、僕の仕事がなくなっちゃうから」と言ってくれています(笑)。

道端:なるほど。私は日本女性の社会進出を目指す「WOMANミリオンクラブ」を立ち上げました。「年商1億の女性経営者を100人集めて、日本を変えよう。経済を回し、税収を増やし、地域格差をなくし、女性の自立支援制度を拡充し、雇用を増やそう」ということを目指した会です。私も大黒さんのように、自分の苦手なことは、その会の統括リーダーにやってもらったりしています。

でも、日本人女性は謙虚で、お願いごとが苦手な人が多い。ビジネスで海外に行っても、相手に9割方しゃべられて、決められてしまうんです。大黒さんも歌手として以外に経営者としての側面もお持ちだそうですが、どのような立ち回り方をされていますか?

大黒:海外だと、黙っていたらずっと思いが叶わないままですよね。日本の音楽業界は、体育会系の男社会なんです。舐められないようにしなきゃと思って男勝りに挑んでいくと、向こうも同じように挑んでくる。だから、舐められてもいいんですよ! 生意気だとか、「大黒は自由だね~」なんて言われても、「それが何か?」と返しています(笑)。

「男は理論的、女は感情的」とよく言いますが、理論に勝てる唯一の方法が、感情。これは、みんなから「笑顔のカツアゲ」って呼ばれているんですけど(笑)、お願いするときだけ、出来る限りかわいい顔をするんです。例えばコーラスに「踊りも踊れる……よね?(ニコッ)」舞台監督には「照明器具増やせる……よね?(ニコッ)」みたいな(笑)。すると、「分かりましたよ。じゃあ、代わりに何を減らしてくれるんですか?」と聞かれるので、「うーん、衣装かな~」……と言っておいて、詰められなきゃ何も減らさない(笑)。

男性がガーッと怒っていたら、顔をじっと見つめて「カッコいい~♡」なんて話の腰を折ると、相手は膝カックンされたように戦意喪失しますよ(笑)。

女性の最大の武器は、笑顔だと思います。「POSITIVESPIRAL(ポジティブ・スパイラル)」という私の曲の中に「CHAINOFSMILES(チェーン・オブ・スマイルズ)」という歌詞がありますが、まさに笑顔はチェーンのように連鎖して広がっていくんですよね。

失うものがない無敵の人 だから無茶ができた

 

道端:大黒さんは去年の秋冬、全国14か所のツアーを行いましたよね。コロナ禍でライブを行うことについては、きっと批判もされたと思います。なぜ、どうやって、そのように大胆な決断をされたのでしょうか?

大黒:あのときは、珍しく正義感が湧いたんです。今でこそコロナについて色々分かってきて、感染対策をすればライブをやっても大丈夫というふうになっていますが、当時は未知のウイルスだった。みんなが恐怖と不安で委縮し、誰が先にやるか顔色を伺っている状態でした。「私が行かなきゃ! このままだと音楽業界みんな餓死しちゃう!」という使命感に燃えたんです。もちろん、全国のインベンターさん達からは「人も金もどれだけかかるんだ!!」と非難轟々。

そこで、スタッフを集めて言いました。「私は家族がいないので、失うものがない『無敵の人』だけど、家族がいる人は恐怖だと思う。だから、行きたくない人は言って。責めたりしないから。全国ツアーに行っても会場とホテルから一歩も出られず、何の楽しみもない。それでも行きたい人だけが名乗り出て」と、そしたら、みんな涙を流しながらも誰一人欠ける事なくついて行きます! と言ってくれた。

徹底した感染対策をしたうえで全国ツアーを決行したら、あんなに猛反対していた全国のイベンターたちが、「大黒、頑張れ! 感染者を一人も出すなよ! お前が成功したら、ほかのアーティストたちも後に続くことができるから!」と応援してくれるようになったんです。

道端:それで無事、感染者を出さずに全国ツアーを完走したんですね。大黒さんは今年も精力的に活動なさっていますが、これからの夢はありますか? 私は「100億プロジェクト」を達成したら、次は「アジア女性財団」を作り、女性起業家たちのネットワークをアジア全域に拡大して、SDGs活動の発展に貢献していくことが夢です。

大黒:何と! 素晴らしい夢☆ 私は今、今夏リリースの「東京OnlyPeace」という曲に合わせたダンス動画をファンから募集しました。コロナ禍でみんなが集まれない今だから、誰もが頑張っているから、スポットが当たらない人こそを主役にしたい! とその動画を繋げて一つのミュージックビデオにして、日本中が一つになればいいなと思ったんです。道端さんは日本だけに留まらず、アジア全域の女性たちを繋げようとしていて、すごいですよね。道端さんがリーダーなら、みんなついて行けそうって思いますよ。このインタビューの後、ぜひ「東京OnlyPeace」のダンス動画を一緒に撮りませんか?

道端;ありがとうございます! ぜひよろしくお願いします。

私の名前は忘れ去られても曲は100年残るのが夢

大黒:私の夢は道端さんのような壮大なものではないけれど、ロサンゼルスのハモサビーチに、海からたった10歩で地下にスタジオも付いている素敵な家があるんです。将来はそこを買って住みたいですね。趣味のサーフィンをしたり、料理を作ってミュージシャン仲間を呼んで、ワインやシャンパンを開けて、美味しいものを食べたり飲んだりしながら、歌を歌ったり演奏したい。それでふわふわした気分になって「気持ちいいなー、このまま死ねたら最高だなー」って思いながら、老衰で誰にも迷惑をかけずに死ぬのが夢(笑)。

あと、大先輩アーティストの松任谷由実さんが、目標は「名もなき名曲」になることだっておっしゃっていたんです。思わず、こぶしを突き挙げて「Agree(賛成)!」と叫んでしまいました。たとえば、「さくらさくら」や「こいのぼり」の曲は知っているけど、作曲者は誰か知らないじゃないですか? 死んで自分の名前は忘れ去られても、自分の曲は100年後、200年後も残る、そういうふうになりたいんだとか。私もすごく同感です。

成功例を100個積み上げたら自信がつく

道端:最後になりますが、今号の「WOMAN serendipity」は「プロフェッショナル」がテーマです。大黒さんにとって、プロフェッショナルとは何ですか?

大黒:アインシュタインが、「私は天才ではありません。ただ、人より長く一つの事柄と付き合っていただけです」という名言を残しているんです。プロフェッショナルってそういうことだと思うんですね。

私も音楽に対しては異常なくらい好奇心旺盛で。掘り下げて掘り下げて、たとえるなら地球を突き抜けて日本の反対側のブラジルに行っちゃうくらい、執念深いんですよ(苦笑)。ブラジルにたどり着いてから、「やっぱり仮歌の方がよかったかな」と思って戻ってくることもありますが、それも無駄じゃないんです。反対側まで行ったからこそ、仮歌の良さが分かったんですから。

曲を作ることは、子供を産み育てることと似ています。けれど、コーラスもバンドメンバーも、アレンジャーも、ディレクターもマネージャーも、曲という子供の成長過程の一部にしか立ち会っていません。子供の出産から嫁入りまで、すべてを見届け、すべての音が体に刻まれているのは私だけ。

長さ的にCDに入りきらないとか、事情があって仕方なくカットしたトラックもありますが、本当はみんなのくれた才能を1ミリたりとも捨てたくないんです。だから老後は、「カットしたけど本当はあっちがよかったな」っていう曲を出していこうかと。道端さんと話しているとまた将来の夢が増えましたね(笑)。

プロフェッショナルというのは、そういう作業を飽きずにやれることじゃないでしょうか。私はよく生徒にこう教えています。「自信がないって言うけど、自信なんて最初っからあるわけないでしょ。これを頑張ったら100点取れたとか、成功例を1個ずつ積み上げて、10個溜まったとき、やっとレベル1になれるの。成功例が100個溜まったら、ようやく自信がついてくる。だから途中で諦めないで、成功例を100個作りなさい」とね。

道端:プロフェッショナルを目指す、すべての女性を後押しする力強いメッセージ、ありがとうございました。