ヒカルは大抵カフェ・オレを飲んでいた。一度、「普通のコーヒーは飲まないのか」と聞いてみたら、ブラックが苦手らしい。この店はコーヒー豆の種類は豊富だが、コーヒーのアレンジ・メニューは少ない。

「じゃあなんでいつもここのカフェに来てたの? 近くにもっとアレンジ・メニューが豊富なカフェはたくさんあるのに……」

俺は例として、高校生でも知っている大手チェーンのカフェをいくつかあげた。

この質問が、「もっと『普通』の高校生が行きそうなカフェに行かないのか」という風に聞こえてしまったのかも知れない。それに実際、俺はそう思っていた。けれどヒカルが躊躇(ためら)いがちに、

「同い年くらいの高校生たちが、楽しそうにしているカフェは落ち着かなくて……」

(つぶや)くのを聞いて、それを察してあげられなかったことが少し情けなかった。「相手に嫌な思いをさせずに情報を引き出す話術は俺にはないな」と改めて自覚して、以降は探るような言動は控えた。ヒカルにとって俺は、学校を休みがちなことも、周りの大人たちに心を閉ざしていることも知らない一般人である。そういう存在だから今の関係が成り立っているのだ。

次第に友達同士のようなカジュアルな会話もするようになった。たとえば音楽だ。

最初の印象からヒカルは「洋楽好き」で「ロック好き」ではないかと勝手に思っていたが、邦楽の、しかもポピュラーな音楽が好きだった。好きなアーティストが俺と被っていたことが判明した時、彼女のテンションも珍しく上がった。ヒカルは俺より六歳年下だが、音楽の話題で世代ギャップを感じることはなかった。