3.両剤を併用すると

ブチルスコポラミンとドンペリドンはアセチルコリンの作用を減弱する薬と増強する薬となり、真逆の立場にある薬になります。これを併用しろとはあまりにご無体なという話になります。

4.どう対応するか、どう考えるか

ドンペリドンの添付文書では、両者は併用注意となっており、「ドンペリドンの胃排出作用が減弱することがある。症状により一方を減量、中止する。又は必要に応じて間隔をあけて投与する」となっています。中止するのは簡単ですが、もし間隔を空けて併用するときはどれだけあければよいかの問題が出てきます。

ブチルスコポラミン錠の半減期は先発薬も含めて記載がなく、ブチルスコポラミン注射(タイヨー;販売中止)の半減期のデータから引っ張ると約2.3時間。Tmaxは想像で1時間以内とします。一方のドンペリドン錠(沢井製薬)のTmaxとt1/2はそれぞれ0.6時間、3.1時間とあります。

両方の薬とも1日3回服用する場合ですが、まずお腹の痙攣性の痛みから治すのであればブチルスコポラミンを朝7:30に服用してから次は昼12:30に服用するとします。その間隔は5時間です。

その中間の時間10:00にドンペリドンを服用すると、ブチルスコポラミンはCmaxの半分程度が血液中に残っていますが、次の服用時間までにさらに減少します。ドンペリドンを飲み始めた時点からお腹の痛みは徐々に復活するかもしれませんが、ドンペリドンが効いてくるので吐き気は治まりだすでしょう。

ブチルスコポラミンを昼12:30に服用するころにはドンペリドンの血中濃度もCmaxの半分近くに下がっており、ブチルスコポラミンの影響力が次第に増してきます。つまり相互の薬の作用を極力打ち消し合わないようにするわけです。次にブチルスコポラミンがCmaxの半分になった15:30ころに、またドンペリドンを服用する。

そのような変則的な服用を患者さんがきちんと守ってくれるかは別として、それを繰り返していくうちに腹痛と吐き気の症状が軽減されていくと前向きに考えるしかなさそうな併用例です。

以上は患者さんの複数の症状に対して、その症状に合う適応症を持った薬を機械的に併用すると、相反する作用機序の組み合わせになる典型例と言ってよいでしょう。薬剤師泣かせの処方例と言えます。

まとめ

正反対の薬を併用することがあると聞いてビックリされる方も多いと思いますが、薬剤師もビックリなのです。そのような処方箋が来た場合には、疑義照会といって薬剤師は処方医に確認して納得してから患者さんに薬をお渡しします。医師の回答に薬剤師が納得できない場合は、その薬剤師は薬を飲んでいるときの注意を患者さんに説明しているはずです。