ドイツ最大の港に中国貨物船

ハンブルク港は四〇〇メートルもの幅のあるエルベ河に埠頭を持つドイツ最大の港である。大きな遊覧船が出発すると、私はすぐにジャンパーを着てデッキに出た。何しろ真夏なのに日本の三、四月の気温なのである。しかし川風は爽快だ。

船は下流の方に走って戻る。大型ドック、クレーンをいくつも見た。巨大な貨物船が見えて来た。その中で注目すべきは中国の船が入っていることである。これは国の勢いを示しているのか。日本船は残念ながらない。

一つ付け加えれば、ドイツと中国は一九世紀から仲が良い。国民性が似ている。身分に厳しい日本人は、逆に融通がききすぎて、無法に近づいている。

この河を見ていると、思い出されるのは一九世紀末、水道の歴史上有名なハンブルク・コレラ事件である。一八六五年ミュンヘン大学のペッテンコーファーはコレラの原因は下水道にありと唱えて一躍世界に認められ、正教授になった。二十五歳年下のロベルト・コッホはベルリン大学で一八八四年コレラ菌を発見し、上水道からの感染もあり得ると発表し正教授になった。この二人は対立した立場になった。

決着がついたのは、一八九二年にエルベ河に面したハンブルクで突然コレラが発生し、八五〇〇人が死亡した事件である。ここで注目されたのはエルベ下流側の郊外のアルトナではほとんどコレラ患者が発生しなかったことである。調査の結果、アルトナの上水道には緩速ろ過の浄水場が完備され、それに対しハンブルクの上水道はエルベの上流水を簡易処理したものであったことが判った。コッホの上水道論の劇的勝利であった。

さて現実に戻り繁華街の中央駅前通りは喧騒に近い混雑で、初めてドイツ人のエネルギーを見た。駅構内には何と銃を構えた兵士がいる。「テロは、どこにも出兵していないこの国にはないはずだが」と思っていたが、実はアメリカとの同盟の関係でアフガンに出兵していたのだった。