小枕に着陣した二日後、八上城に動きが見えた。それまで籠城していた波多野勢だけではなく、共に籠城していた細川晴元勢もが城から討って出たのである。敵勢は儂の陣には全く気付きもせず、篠山川の対岸に陣取る甚介の陣に一直線に向かって攻撃を仕掛けた。

「時、至れり」

そう思った儂は、出撃の同意を軍監の秀重に求めた。

「弾正殿、まさしく今ですぞ」

その言葉を受け、儂は采配を振るった。

篠山盆地に入ると、秀重が予想した通りの隙だらけの敵側面がそこにあった。

「敵の左側面を突けぇ!」

左側面からの思いもよらぬ攻撃を受けた敵は、(たちま)ち浮足立ち、あっという間に陣形を崩した。

波多野晴通率いる波多野勢は八上城へ退き、細川晴元は丹波国深くに逃げていった。

甚介の采配による鮮やかな勝利であった。

戦の後、

「何故、奴らは城から討って出たのか」

と、甚介に尋ねると、

「教えぬわぃ」

と、甚介は舌を出し、いたずら顔で儂をからかった。