一方、晴元・宗三の一派の呼びかけに応じたのは、伊丹城の伊丹親興、茨城城の茨木長隆ら極めて僅かであったが、近江の守護六角定頼は、「長慶は謀反人だ」と呼ばわり晴元支援を宣言し、和泉の守護細川元常も晴元に応じた。

京にあった晴元と宗三は六角定頼、細川元常に援軍を要請し、息子政勝の籠る榎並城に援軍を送る算段をしていたところであったが、なかなか思うように兵が集まらず、出兵もままならない状況にあった。

こうして再びの戦雲は、細川京兆家の家督争いと三好家の主導権争いとが相まって天下の諸勢力を巻き込む騒乱の嵐を呼んだ。

ちなみに、この時代の〈天下〉とは、京のある山城国とその周辺諸国をまとめた限られた地域のこと、すなわち〈畿内〉を意味する。

越水城内の役宅に戻った儂は、(いくさ)支度を急いでいた。

「また戦なのですね」

戦装束への着替えを手伝う千春は、心配そうな顔をしている。

「摂津の国衆のほとんどが儂らにお味方くだされる。しかも儂は本陣にあって長慶様の御側近くに控える身じゃ。何も案ずることはない」

そう言って、千春を慰めた。

「それにしても、我が殿は人望がお有りのようじゃ。国衆らは、こぞって殿を頼っておる。もしかすると殿の天下も夢ではないやもしれぬぞ」

千春の心配をよそに、儂の心は希望に満ちていた。

「それは良うございました。御殿様はお優しい方ですもの。きっと良き世を築いてくだされましょう」

千春の表情が、幾分か和らいだ。