八月のお盆の時期、会社からの帰り道、彼は前と同じ場所にまた現れた。今度は木曜日だった。しばらく会っていなかったせいか、話しかけられた時、少し緊張した。

「元気か?」

「まあまあ。そっちは元気?」

「まあまあだな。ところで、明日の午後四時半に代々木八幡駅に来られるか? 会社を休まなくてはいけなくなるが」

代々木八幡駅とは小田急線の駅のことか。でもそんな唐突には休めない、と言いたいところだが明日はもともと有休をもらっている。特に予定もない。俺は休みに必ず予定を入れないと気が済まないタイプじゃない。どちらかというと今はちょっと疲れていて、家でゆっくり本を読んだり映画を見たりしていたい。

「いいよ、行ける」

「では、明日」

さっぱりしたものである。さすがにもう少し情報が欲しい。

「何があるんだ?」

「明日話す」

「今じゃダメ?」

「明日がいい」

うーん。まあいいか。先に何があるか聞いて、テンション下がるかも知れないし。

「分かった。四時半ね。待ち合わせ場所は小田急線の改札口でいい?」

「時間に駅にさえいてくれれば、俺が見つける」

そういうことになった。そして彼は一度立ち去ろうとして、振り返った。

「なあ、本当に元気なのか?」

「ん? 俺のこと?」

彼は頷く。確かに最近少ししんどい。顔に出ていたか。

「もしかしたら疲れているかも。まあ休めば平気だよ」

「そうか」

そうして明治神宮の木が茂っている方へ消えていく。帰宅してからふと思う。あの時間に神社の木が茂っている方に消えていくってどういうことだ?