6) 謎の式1/(1−e−Kel・τ)でなぜ蓄積率を表せるのか?

数式が出てくると大抵の人はまあいいやとなるでしょうから、前項では表1で大まかな蓄積率の求め方を示しておいたのですが、どうしても気になる方のために私なりの解釈をここで示しておきます。

まず薬が消失していく過程が1次速度式で表現されることを前提とします。初回投与時の最高血中濃度をCmax、投与間隔をτ、n回目の最高血中濃度をCn、消失速度定数をKelとした時、

初回の最高血中濃度C1=Cmax

2回目最高血中濃度C2=Cmax・e-Kel・τ+Cmax

→右辺の第1項は初回服用分の残分になります。

3回目最高血中濃度C3=C2・e-Kel・τ+Cmax=Cmax・(e-Kel・2τ+e-Kel・1τ+e-Kel・0τ

同様にするとn回目の最高血中濃度Cnは

 

となります。

この式をじっくり見ますと、下線部は公比がe-Kel・τの等比級数になっています。簡単にするため下線部をXn、公比をaとして整理すると、Xn=an−1+an−2+・・・・・a1+a0となります。

ここで高校数学で習った手法が登場します。この式の両辺にaを掛けた式との差をとると、Xn−aXn=1−anが得られます。

ここから Xn=(1-an)/(1-a)が得られ、さらにXnとaを元に戻すと

(式2)

が得られます。下線部は定数になりますが、波線部は変数n(投与回数)が大きくなると限りなく1に近づきます。このときの左辺のCnはCでありCssmaxでもあり、右辺はCmax×1/(1-e-Kel・τ)(式3)になります。つまり、定常状態のCmax(Cssmax)は初回のCmax×蓄積率という式が浮かび上がります。

ところで1)−②では定常状態には半減期の4~5倍で到達すると書きましたが、n回投与時のCnの式2からそれを確認してみましょう。

消失速度定数Kel=0.693/t1/2の関係がありますので式2の分子にあるKelを半減期で置き換えてみると

Cn=Cmax×(1−e-(0.693/t1/2)・τ・n)/(1-e-Kel・τ)となります。

τ・nを投与されてからの時間と単純に考え、4半減期経過時間と考えるとτ・n=4×t1/2となりますから、式を整理すると分子の( )内の部分は、1-e-(0.693・4)=1-0.0625=0.938となります。

この時、式3からCn=0.938×Cssmaxになりますから、4半減期経過後はCssmaxの0.938倍まで近づいていることになり、ほぼ定常状態になっていると考えてよいだろうという話になります。ちなみに5半減期経過すると、定常状態の0.969倍とさらに定常状態に近くなり、臨床効果的には4~5半減期経過すれば定常状態と見なせるとなるわけです。

まとめ

私が高校時代の数学で習った等比級数の公式が今になって応用できたと驚いた時のニュースの話題です。若い頃の勉強が人生のどの時点で役立つか分からないという事例でした。