さっそくその日の放課後、二人は部活に顔を出した。相変わらずグラウンドの端っこの狭いスペースでの練習だけれど。でも、足立くんのテンションは明らかに高い。これで部員は八人。半年余りたった一人のラグビー部を続けていたのだから、それは嬉しいだろう。龍城ケ丘の山本先輩から提案された夏合宿への参加も、すでに学校の許可を取った。副校長はなぜかラグビー部に好意的で、何かと便宜を図ってくれる。

「マジ、面白れぇ。快感じゃん!」

佐伯くんは初めて手にした楕円球の感触を楽しんでいる。一年生たちのパスの技量も向上してきて、スタンディングパスならそれなりのスピードボールも投げられるようになった。澤田くんは足立くんから習ったスピンパスの練習を重ねている。それに興味を示した佐伯くんは、シンちゃんシンちゃんと、旧知の間柄のようになれなれしく寄って行く。

「オレにも、教えて。カッコいいじゃん」

ボールに添えた手でリリースの瞬間に回転を与えると、ボールは鋭い縦回転で矢のように飛んで行く。その勢いは、キャッチした手にも快い衝撃になる。佐伯くんはすぐにスピンパスのコツをつかんでしまった。

「先生、あいつ、天性のスクラムハーフかも」

足立くんは佑子と並んで立ちながら、嬉しそうにつぶやく。

「パス、上手だよね」

「それだけじゃなくて、しゃべりっぱなしでしょう。ああいう性格、向いてるんですよ」

「楽しみだね」

「秋の大会も、合同ティームではあっても出場チャンスが出てきましたからね。龍城の三年生からポジション取れるとも思えないけど」

「でも、大会を経験することだけでも、大切だよ」

足立くんは少しあごを上げて空を見上げる。

校舎の向こうの大磯丘陵の緑も色濃くなった。来春のセブンズの大会には、大磯東の単独ティームでエントリーもできるだろう。そのことが、足立くんに頼もしいキャプテンの風格を与え始めている。