【前回の記事を読む】心を閉ざす生徒に「いっそラグビー部に誘っちゃおうか」

新しいマネージャー

でも、文化祭という非日常があったせいか、部活の空気は少し浮ついている。

後夜祭といっても五時半には終わってしまうイベントの後、基礎練習に限定してグラウンドに出る。軽いランニングと、基本的なコンタクトスキルの練習だったのだが、トラブルはそんな時に起こる。

滋田くんが、不意にグラウンド中央でうずくまった。

周囲の部員の大慌ての声。二年生のマネージャー二人は部室の片づけ中だったので、佑子は一年生マネージャーの二人と一緒に、メディカルバッグを持って走る。

部員たちがパニックになるのも道理で、左目を押さえた滋田くんの指の間からは鮮血がもれている。

「トモくん。返事できる?」

佑子が問いかけると、滋田くんはこっくりと頷いた。

「目、なのかな?それともまぶたかな?」

「目じゃないと、思います」

「あかりちゃん、タオル出して。クリーニングしてある清潔なタオル」

佑子はそのタオルで傷口を圧迫しながら、新田さんにも声をかける。

「ありすちゃん。保健室に行って養護の先生の応援を頼んできてくれる?トモくん、痛みは?出血に驚いたのかな?」

傷口の様子から見て、おそらく接触時にまぶたをカットしたのだろう。

「足立くん。クールダウンして今日は上がりなさい」

不安そうに滋田くんの足元の血液の痕を見下ろしていた足立くんは、気を取り直して部員たちに指示を出し始めた。佑子が保健室から駆け付けた養護の先生に応対しようとすると、小山さんが身を乗り出して私が、と言う。

少し目が光ったのは、なぜ?

夏休みに入ってすぐの土曜日、午前中は部活の練習だ。

「ちょっと、足首テーピング頼もうかな」

みんながグラウンドに出て行くタイミングで、風間くんが言い出した。二年生のマネさん二人は、スプリンクラーも十分に整備されていない大磯東高ゆえに、かさかさに乾いたグラウンドへの散水に一生懸命だ。佑子が風間くんに頷くと、風間くんは言うのだ。

「あのさ、先生のテーピングって、優しすぎるんだよね。オレ、もっとぎっちぎちにやってほしいワケ。そこいくとさ、あかりちゃんのテーピング、フィットするのよ」

ちょっと微妙な笑顔で、小山さんがテープを取り出す。

「キツめのテーピング。あかりちゃん、ちょっとエス?」

パイプ椅子に腰かけて左足を投げ出した風間くんに、小山さんは遠慮なく言うのだ。

「先輩、足クサいよ。テーピングの前に足洗ってきてよ」

それでも風間くんはその言葉に従って、水道までケンケンで行って足を洗ったりする。