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胸騒ぎがする医師面談、夫の容態を告げられ…

ちょっとびっくりした益田医師であったが、いつもよりゆっくりとした口調で優しく話し始めた。

「今の判断では、これ以上の回復はあまり望めないと考えています。コミュニケーション能力や嚥下機能、つまり食べたり飲んだりする機能などは、ほぼこのまま障害された状態で今後も続いていくと考えています。

今後はこの状態で敬一さんのケアを考えていくのが現実的だと考えています。そこでまず栄養管理のあり方からお話しいたします。

先ほども、点滴だけではすでに栄養状態の維持は継続できないと話しましたように、今後は点滴に代わる方法を採る必要があります。人の体の栄養吸収については消化管を使って維持するのが一番いいんですね。胃に栄養を満たすものが入り、腸管で吸収される形式が、栄養素の消化吸収という意味では、体にとってベストな方法です。

ところが、敬一さんの場合には口で物を噛むことも、飲み込むこともできません。無理やり食べさせると誤嚥を起こして、最悪の場合、肺炎を発症してしまいます。ですから、私たちは敬一さんに経管栄養法を行うつもりでおります。

最初は鼻から胃管を入れて栄養剤を注入する方法を実施する予定です。胃や腸が慣れてきたところで濃度をあげていって、副作用としてよく起こる下痢を防ぎたいと思っています。

ただ、この方法には気道感染のリスクがあります。鼻に太い異物が入っているわけですから、そこからの細菌侵入を防ぐことは難しいのです。ですから、今月中には胃に直接栄養剤を注入する方法に変更したいと思っています。胃カメラをやりながら胃に胃瘻(いろう)という穴を開けます。それが1週間で安定した状態になってから、その胃瘻から直接栄養剤を注入します」

「ええっ、胃に穴をあけるんですか。そんな方法しかないんですか」

あまりに想定外の話で、和子さんは簡単に受容できなかった。胃に穴を開けるなんて、夫の体に傷をつけるようで、現状でも不憫なのに、さらに痛々しい姿にさせるのは可哀想でならなかった。