序 事の始まり

 子のない政元は三人の養子を迎えた。一人は摂関家の九条家から澄之を、一人は細川氏庶流の阿波細川家から澄元を、いま一人は細川家庶流の野州家から高国を迎えた。

九条家から養子入りした澄之が幼少の頃には、細川本宗家の嫡子に名付ける〈聡明丸〉を名乗らせるなどして後継と定めたのであるが、細川の血縁ではない澄之を細川の家督とすることに異議を唱える者が多く、政元自身も後悔し、細川一族の澄元を新たに後継とした。このことにより澄之は廃嫡されたのである。当然、澄之派の家臣は政元に反感を覚え、果たして政元は澄之派によって暗殺されてしまうのである。

斯くして京兆家すなわち細川本宗家の家督を巡って、三つ巴の争いが始まった。

この三つ巴の混乱に乗じて登場してきたのが、澄元の実家である阿波細川家の家宰であった三好之長である。之長はその軍事の才を遺憾なく発揮し、澄元を京兆家の家督に据えたのである。

いま一人の養子である高国は、はじめは澄元の家督相続に協力し、共に澄之を討ち果たしたのであったが、之長の台頭を快く思わず、之長と対立し、澄元と袂を分かつこととなる。

そしてこの物語の主人公である松永久秀の生年とされる永正五年(一五〇八年)、高国は摂津の伊丹元扶、丹波の内藤貞正、河内の畠山尚順らを味方に付け、京へ侵攻し、澄元と之長の軍勢を討ち破る。

敗れた澄元と之長は将軍義澄を伴って近江に逃れたため、三つ巴の細川京兆家の家督争いは、一旦は高国が勝ち取った。